4.28 リン吸着剤(塩酸セベラマー)
1. 塩酸セベラマーの特徴
炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムを投与するにあたっては、投与された炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムのカルシウム部分がリンと結合してリン酸カルシウムとなり、これが便と共に排泄されることを期待している。しかし、実際には投与された炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムのカルシウム部分の一部は腸管内でリンと結合することなく、腸管壁から吸収されて、しばしば高カルシウム血症の原因となる。そのため、高リン血症をコントロールするのに十分な量の炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムを投与することができないことがある。このような問題を解決するために、カルシウムを含まないリン酸吸着剤である塩酸セベラマー(非吸収性ポリカチオン製ポリマー)が開発された。
最近、やはりカルシウムを含まないリン酸吸着剤である炭酸ランタンが発売になった。炭酸ランタンは塩酸セベラマーよりもリン吸着能が強い。
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■塩酸セベラマー
フォスブロック錠250mg (キリン)
レナジェル錠250mg
(中外) |
2. 塩酸セベラマーの投与法
これまでの臨床治験によると、塩酸セベラマーの初期投与量は、透析前血清リン濃度が 8.0 mg/dL未満の患者では1日3回、1回 1gを投与し、透析前血清リン濃度が 8.0 mg/dL以上の患者では1日3回、1回 2gを投与する。その後、透析前血清リン濃度が 3.5〜6.0 mg/dLとなるように、適宜投与量を増減させる。塩酸セベラマーは1日に最大 9g まで服用することが可能である。
3. 副作用
塩酸セベラマーの服用によりしばしば便秘が生じる。臨床治験報告によると、塩酸セベラマーの服用後4週間以内に 17.8% の患者で便秘が増悪している。塩酸セベラマーの服用による便秘に対しては、理論的には、ソルビトールなどの浸透圧下剤を同時に服用させるのがよいが、それだけでは便秘を防げないこともありうる。そのような場合には、ぜん動を促進する作用機序の下剤を投与する。
また、塩酸セベラマーは同時服用すると併用薬の吸収を遅延・減少させる可能性がある。そこで、併用薬については服用時間をずらすようにする。さらに、塩酸セベラマーにより脂溶性ビタミン(ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなど)や葉酸塩の吸収が阻害される可能性がある。したがって、塩酸セベラマーを長期間投与する場合には、これらの補給を考慮する。
4. 二次性副甲状腺機能亢進症の患者における塩酸セベラマーの投与
二次性副甲状腺機能亢進症の患者では、塩酸セベラマーの投与により血清カルシウム濃度を上昇させることなく血清リン濃度を下げることができる。そこで、二次性副甲状腺機能亢進症の患者では塩酸セベラマーの投与によりアルファカルシドール、カルシトリオール、マキサカルシトールあるいはファレカルシトリオールなどの活性型ビタミンD製剤の投与量を増やす余地が生じる。
5. 副甲状腺機能低下症の患者における塩酸セベラマーの投与
副甲状腺機能低下症の患者に高リン血症が認められた場合には、おそらく塩酸セベラマーに加えて炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムの適量を投与し、血清リン濃度だけでなく血清カルシウム濃度も適正な値にコントロールすべきであろう。しかし、このような症例に対する塩酸セベラマーの投与法に関しては未だ報告がみられない。
塩酸セベラマー投与後の透析前血清リン濃度の推移。Washoutありの群(n=61〜59)では、炭酸カルシウムや酢酸カルシウムなどのリン吸着剤を中止した後、しばらく時間をおいて血清リン濃度が上昇しきって安定してから塩酸セベラマーの投与が開始された。一方、washoutなしの群(n=93〜86)では、リン吸着剤を中止した後、直ちに塩酸セベラマーの投与が開始された。いずれの群でも、塩酸セベラマー投与開始時の血清リン濃度が 8.0 mg/dL未満の場合には1g/日の塩酸セベラマーが投与され、血清リン濃度が 8.0 mg/dL以上の場合には 2g/日の塩酸セベラマーが投与された。塩酸セベラマー投与開始後 8週目からは、血清リン濃度が 4〜6 mg/dLとなるように、塩酸セベラマーの投与量が増減された。
なお、塩酸セベラマー投与開始後 8週目からは、両群のデータをまとめてグラフに表示した。(製薬会社のパンフレットより)
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