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5.1 活性型ビタミンDの作用

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5.1  活性型ビタミンDの作用
1.活性型ビタミンDの作用

活性型ビタミンD [ 1,25(OH)2D3 ]は、(1) 腸管からのカルシウムとリンの吸収を促進し[1]、(2) PTHの産生・分泌、副甲状腺細胞の増殖を抑制する[2]、(3) 骨芽細胞に作用して骨のリモデリングを促すと共に骨の石灰化を促進するとされている[1]。しかし一方では、ビタミンD欠乏時の骨石灰化障害は腸管からのカルシウム吸収不足に伴う2次的な変化であるとする見解[3]や活性型ビタミンDは副甲状腺ホルモン(PTH)濃度に影響を与えず、低回転骨症を生じさせてしまうとの報告[4]もある。

2.透析患者ではビタミンD活性化機能が喪失

透析患者では、腎のビタミンDの活性化機能が喪失しており、実質的な活性型ビタミンD欠乏状態にある。そのため、しばしば活性型ビタミンD製剤が投与されるが、投与にあたってはPTH 濃度や血清 ALP 濃度等を総合的に判断して投与方法・投与量を決定しなければならない。また、投与中は、高カルシウム血症や高リン血症の合併に充分注意しなければならない。

3.新しい活性型ビタミンD誘導体

最近発売になった活性型ビタミンD誘導体、マキサカルシトールとファレカルシトリオールは、従来の活性型ビタミンDに比べて血清カルシウム濃度を上昇させる作用が弱いと期待されている。
 
 
 
文献
1. 福本誠二:骨・カルシウム代謝調節ホルモン. 日内会誌 82: 1923, 1993.
2. Cantley LK, et al: 1,25(OH)2 D-dihydroxyvitamin D3 suppresses parathyroid hormone secretion from bovine parathyroid cells in tissue culture. Endocirinology 117: 2114, 1985.
3. Li YC, et al: Normalization of mineral ion homeostasis by dietary means prevents hyperparathroidism, rickets and osteomalacia, but alopecia in vitamin D receptor-ablated mice. Endocirinology 139: 4391, 1985.
4. Goodman WG, et al: Development of adynamic bone in patients with secondary hyperparathyroidism after intermittent calcitriol therapy. Kidney Int 46: 1160, 1994.

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4.33 リン吸着剤(クエン酸第二鉄水和物)

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4.33  リン吸着剤(クエン酸第二鉄水和物)
新しいリン吸着薬として、2014年5月、クエン酸第二鉄水和物が発売された。このリン吸着薬では、クエン酸第二鉄水和物の第二鉄(3価鉄)がリンと結合して不溶性の沈殿(リン酸鉄)を生じる。クエン酸第二鉄水和物の製剤であるリオナ(鳥居薬品)は、比表面積が大きいため、溶解速度が既存の高リン血症治療薬よりも速く、そのため、消化管内で効率的にリンを吸着するとされている。
1. クエン酸第二鉄の薬物動態
主成分である第二鉄(3価鉄)は大部分がリン酸と結合し、難溶性の沈殿(リン酸第二鉄)を形成して便中に排泄されるが、一部は腸上皮細胞膜上で第一鉄(2価鉄)へ還元された後、腸上皮細胞に取り込まれる。腸上皮細胞に取り込まれた第一鉄(2価鉄)の大部分は血中に放出されて第二鉄(3価鉄)に酸化され、鉄輸送蛋白であるトランスフェリンと結合する。しかし、腸上皮細胞に取り込まれた第一鉄(2価鉄)の一部は細胞内でフェリチンを形成し、腸上皮細胞の脱落と伴に消化管内へ排泄される。
クエン酸第二鉄を投与すると、血清鉄および血清フェリチンは上昇、総鉄結合能(TIBC)は低下、鉄飽和率(TSAT)は上昇する。
 
 
2. クエン酸第二鉄の投与方法
通常、1日500mg/日から開始し、以後、血清リン濃度に応じて投与量を調整する。最大投与量を1日6,000mgとする。投与量を増やす場合の増量幅は1日あたり1,500mgを上限とし、前回の増量時から1週間以上、間隔をあける。
 
 
3. 副作用
主な副作用は、下痢、便秘、腹部不快感、血清フェリチンの上昇である。
 
 
4. 投与にあたっての注意
a. 血清フェリチンなどの鉄関連指標を定期的に測定し、鉄過剰状態の発生に注意する。鉄剤を投与している患者、ヘモクロマトーシスなどの鉄過剰状態にある患者ではとくに注意が必要である。
b. ヘモグロビン濃度などの貧血関連指標を定期的に測定し、特に赤血球造血刺激因子製剤(ESA)と併用する場合には、過剰造血に注意する。
c. 消化性潰瘍、炎症性腸疾患などの胃腸疾患のある患者では、クエン酸第二鉄水和物の投与により病態が悪化することがある。投与開始後の観察が重要である。
d. C型肝炎などの肝炎患者では、クエン酸第二鉄水和物の投与により病態が悪化することがある。投与開始後の観察が必要である。

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4.32 リン摂取量を推定する式

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4.32  リン摂取量を推定する式
1. 原理
透析によるリン除去量とリンの経口摂取量との間には、何らかの関係があるはずだとの仮定の下、リン吸着薬を服用していない16名の患者でリンの動態モデルを解析することにより求めた透析によるリン除去量(x mg/HD/body)と厳密に評価したリンの経口摂取量(y mg/day/body)との関係を調べた。その結果、両者間には図1と式(1)に示す関係が認められた。
 y = 0.91 x + 157.87                                                                                 (1)
もし対象患者がリン吸着薬を服用していないなら、式(1)の x にリンの動態モデルを解析することにより求めた透析によるリン除去量を代入すれば、リンの経口摂取量が算出されるはずである。もし対象患者がリン吸着薬を服用しているなら、式(1)により算出された値にリン吸着薬に吸着されたリン吸着量を加えることによりリンの経口摂取量が得られることになる。
 
 
2. 透析によるリン除去量の求め方
透析によるリン除去量を決定する因子は血清リン濃度、ダイアライザのリン・クリアランス、透析時間の3つである。そして、1分間に透析で除去されるリンの量は、その時点での血清リン濃度とダイアライザのリン・クリアランス の積として求められる。さらに、このようにして求めた透析中の各 1分間あたりのリン除去量をすべて加えていったものが透析による総リン除去量である。
a.血清リン濃度
図2には、透析中、30分おきに測定した血清リン濃度を示す。図2に示すように、血清リン濃度は、透析中の最初の90分間は指数関数的に低下し、その後は透析終了 時まで透析開始後 90 分の濃度が続く。
したがって、透析開始から 90 分間については、時間 t(分)における血清リン濃度は式 (2)により示される。

 P(t) = Ps・exp(-Kp×t/Vp )                                                                                    (2)

ただし、P(t) は透析中の時間 t における血清リン濃度(mg/ml)、Ps は透析開始時の血清リン濃度(mg/ml)、Kp は透析中のリン・クリアランス(ml/分)、Vp はリンの分布容積(ml)を示す。

一方、透析開始後 90分目から透析終了時までの間については、時間 t における血清リン濃度は式 (3)により示される。

 P(t) = Pe                                                                                                  (3)

ただし、Pe は透析終了時の血清リン濃度(mg/ml)を示す。
 
b.ダイアライザのリン・クリアランス
透析中のリン・クリアランスは Klein の式を用いて血流量 (QB ml/ 分)、透析液流量 (QD ml/ 分)、およびリンに関する総括物質移動係数 KoA(ml/分)から算出する[1]。
 
        1 - exp[KoA(1/QB - 1/QD)] 
Kp =
 ------------------------------------------------(4)
     1/QD - 1/QB×exp[KoA(1/QB -1/QD)] 

ただし、リンに関する総括物質移動係数 KoA は、血流量 200ml/分、透析液流量 500ml/分の下でのダイアライザのリン・クリアランス (K ml/分)を式(4)に代入し、この式を書き換えることにより導いた以下の式により求める。

 KoA=ln(Z)/(1/200 -1/500)                                                                       (5)

ただし、Z=(1-K/500)/(1-K/200)

なお、血流量 200ml/分、透析液流量 500ml/分の下でのダイアライザのリン・クリアランス K には、メーカーのダイアライザのカタログに記載されている値を使用する。
 
c.透析によるリン除去量
透析によるリン除去量は各 1分間あたりのリン除去量を透析中についてすべて加えていくことにより求める。これを言い換えると、透析によるリン除去量は単位時間当たりのリン除去量を透析開始時から終了時まで積分することにより求められる。
さて、透析開始から 90 分間の任意の 1分間に除去されるリンの量は、式(2)にリン・クリアランス Kp(ml/分)を掛け合わせたものである。

 E(t) = Kp×Ps exp(-Kp×t/Vp )                                                                 (6)

そして、透析開始後 90 分間に除去されるリンの量 (TE1 mg)は、式(6)を t=0からt=90 まで積分することにより得られる。

 TE1 = Ps×Vp [1- exp(-90 Kp/Vp )]                                                         (7)

一方、透析開始後 90 分目から透析終了時までの間の任意の1分間に除去されるリンの量は、式(3)にリン・クリアランス Kp を掛け合わせたものである。

 E(t) = Kp×Pe                                                                                           (8)

そして、透析開始後 90 分目から透析終了時までの間に除去されるリンの量 (TE2 mg)は、式(8)を t=90 から t=Td まで積分することにより得られる。ただし、Td は透析時間(分)である。

 TE2= Kp×Pe (Td- 90)                                                                              (9)

そこで、透析中に除去されるリンの総量 TE(mg)は、TE1と TE2 を加えることにより求められる。

 TE = Ps×Vp [1- exp(-90 Kp/Vp )] + Kp×Pe (Td - 90)                             (10)
 
d.リンの分布容積
式(10)により透析中に除去されるリンの総量を求めようとすると、リンの分布容積 Vp が必要になる。リンの分布容積 Vp(ml) を求める式は、式(2)に t=90、P(90)=Pe を代入して、これを書き換えることにより導く。

 Vp = - 90×Kp/ln(Pe/Ps)                                                                           (11)
 
 
3. リン摂取量の求め方
a.リン吸着薬を服用していない場合
まず、透析前後の血清リン濃度(PsとPe mg/ml)、透析時間(Td 分)、式(4)により求めたダイアライザのリン・クリアランス(Kp ml/分)、式(10)により求めたリンの分布容積(Vp ml)を式(10)に代入して透析中に除去されたリンの総量を求める。次に、このようにして求めた透析によるリン除去量を式(1)に代入する。これにより、リン吸着薬を服用していない場合のリン摂取量(mg/日)が得られる。
 
b.リン吸着薬を服用している場合
リン吸着薬を服用している患者のリン摂取量(mg/日)を求める場合には、リン吸着薬を服用していないという前提で式(1)により求めたリン摂取量(mg/日)に、1日に服用 したリン吸着薬に吸着されたリンの量(mg)を加えなければならない。

リン吸着薬に吸着されるリンの量(mg)は次の方法により求める。炭酸カルシウム 1g にはリン 45mg が吸着されるとされている。また、1g あたりのリン吸着量の各薬剤の比は以下のように考えられている。

 炭酸Ca:セベレマー:ランタン=1 : 0.75 : 2

そこで、以上を基に各リン吸着量1錠に吸着されるリンの量を算出する。

 炭カル1錠(500mg)に吸着されるリンの量:22.5 mg
 塩酸セベレマー1錠(250mg)に吸着されるリンの量:8.4375 mg
 ホスレノール1錠(250mg)に吸着されるリンの量:22.5 mg
 キックリン1錠(250mg)に吸着されるリンの量:8.4375 mg

上記のリン吸着薬 1錠に吸着されるリンの量と実際に服用しているリン吸着薬の錠数から、服用しているリン吸着薬に吸着されたリンの量(mg)を推定し、これをリン吸着薬を服用していないという前提で式(1)により求めたリン摂取量(mg/日)に足して、補正されたリン摂取量を求める。
 
 
4. リン摂取量を計算するコンピュータ・プログラム(個人の使用のみ可)
参考までに、リン摂取量を求めるコンピュータ・プログラムを記載する。
 
10 REM ***** リン摂取量のプログラム *****
20 QB=200
30 QD=500
40 INPUT”カタログのリン・クリアランス(mL/min)=”; KK
50 Z=(1-KK/QD)/(1-KK/QB)
60 KOAP=LN(Z)/(1/QB-1/QD)
70 INPUT”透析時間(hr)=”;T
80 TD=T*60
90 INPUT”血流量(mL/min)=”;QB
100 INPUT”透析液流量(mL/min)=”;QD
110 INPUT”透析前リン濃度(mg/dL)=”;PS
120 PS=PS*10
130 INPUT”透析後リン濃度(mg/dL)=”;PE
140 PE=PE*10
150 INPUT”ヘマトクリット(%)=”;HT
160 INPUT”1日あたりの炭酸カルシウム 500mg 摂取量 (錠)=”;RR
170 INPUT”1日あたりの塩酸セベレマー 250mg 摂取量(錠)=”;SS
180 INPUT”1日あたりの炭酸ランタン 250mg 摂取量(錠)=”;TT
190 INPUT”1日あたりのビオサロマー 250mg 摂取量(錠)=”;WW
200 QSER=0.93*QB*(1-HT/100)
210 AA=1-EXP(KOAP*(1/QSER-1/QD))
220 BB=1/QD-1/QSER*EXP(KOAP *(1/QSER-1/QD))
230 KP=AA/BB
240 KP=KPS000
250 VP=-90*KP/LN(PE/PS)
260 EP= PS*VP*(1-EXP(-90*KP/VP))+KP*PS*EXP(-90*KP/VP)*(TD-90)
270 AP=0.9054*EP+157.87
280 IP= AP+113.5*RR+42.5*SS+113.5*TT+ 42.5*WW
290 PRINT”リン摂取量(mg/日)=”;IP
300 END
 
 
 
文献

1.    Klein E: Evaluation of hemodialyzers and dialysis menbrane,No.(NIH)77-1294,DHEW Pub.1977



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4.31 より正確な nPCR を算出する式


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4.31 より正確な nPCR を算出する式

1. nPCR(蛋白質異化率)
蛋白質摂取量を反映するnPCRは、尿素の産生速度から算出され、尿素の産生速度は 単位体液量、例えば 1 mL の血液に含まれる尿素の量である。尿素窒素濃度(BUN)から求める。そして、 理論的に血清尿素窒素濃度から求めた尿素の産生速度は単位体液量あたりの尿素産生速度となる。したがって、ある患者における総尿素産生速度を求めようとする場合には、 血清尿素窒素濃度から求めた尿素産生速度を体液量と掛け合わせなければならない。
ということは、正確な nPCR を算出するためには、正確な体液量が必要であることになる。しかし、現在しばしば用いられる透析後体重の 58% としている体液量は、実際にはほとんどの患者で真の体液量に対して過大評価されている。
 

2. 尿素分布容積の精度
尿素は、安定状態では体液のすべての区画に均一の濃度で分布する。これは体液量は実質的に尿素分布容積に等しいことを意味している。
現時点で臨床的に可能な尿素分布容積(体液量)を求める方法のうち、もっとも正確なものは、透析によって除去された実測の尿素の総量を透析前後の血清尿素窒素濃度の差で割ることである。 山本らは、この方法で求めた体液量を対照として、種々の方法で求めた体液量の正確さを比較し、図1に示すように、尿素動態モデルを解析することによってダイアライザの尿素クリアランス、透析時間、透析前後の 血清尿素窒素濃度から算出した尿素分布容積が最も正確であり、次に正確なのは Watson の式を用いて性別、年齢、身長、体重から算出した尿素分布容積であったとの結論を得ている。さらに、彼らは、もっとも精度が劣るのは透析後体重の 58% として求めた尿素分布容積であったとも報告している。
 
 

3. nPCRの精度
nPCR を求める山本らの 簡易 式では、体液量を透析後体重の 58% として nPCR を算出している。ところが、すでに述べたように、もっとも正確な体液量はダイアライザの尿素クリアランス、透析時間、透析前後の血清尿素窒素濃度から算出した尿素分布容積である。したがって、nPCR を求める山本らの簡易式で、透析後体重の 58% として求めた体液量の代わりにダイアライザの尿素クリアランス、透析時間、透析前後の血清尿素窒素濃度から算出した尿素分布容積を用いれば、より正確な nPCR が算出されることになる。
 

さて、実用性は無視することにして、現時点でもっとも正確な nPCR を求める方法は、透析によって除去された実測尿素窒素量を透析前後の血清尿素窒素濃度の差で割ることにより求めた尿素分布容積と、透析終了時から次回の透析開始時までの間の血 清尿素窒素濃度の上昇度から求めた尿素産生速度の2つの要素を使用して求めた nPCR であろう。山本らは、この方法で求めた nPCR とその他、種々の方法で求めた nPCR とを比較することにより、より正確な nPCR を求める方法を明らかにしている [1]。
彼らは、図2に示すように、もっとも正確なのは、尿素動態モデルを解析することによりダイアライザの尿素クリアランス、透析時間、透析前後の血清尿素窒素濃度から求めた尿素分布容積に基づく nPCR であり、次に正確なのは Watson の式を用いて性別、年齢、身長、体重から算出した尿素分布容積に基づく nPCR であるとしている。そして、もっとも正確さが劣るのは、尿素分布容積を透析後体重の 58% として求めた nPCR であったと報告している。




4. 尿素動態モデルを解析することにより得られた尿素分布容積に基づく nPCR の算出式

図3には、nPCR を求める山本らの簡易式と尿素動態モデルを解析して尿素分布容積を求める式とを組み合わせることにより作成した nPCR (g/kg/日) を算出する新しい式を示す(仮に単に山本の式としておく)。山本の式では、R は透析開始時における血清尿素窒素濃度に対する透析終了時における血清尿素窒素濃度の比、TDは透析時間(分)、(G/V)1 は体重変化を無視した時の尿素産生速度(g/V/分)、(G/V)2 は体重変化で補正した尿素産生速度 (g/V/分)、V は尿素分布容積 (L)、BW は透析終了時の体重 (kg)、?BWは透析中の体重減少量 (kg)、CS1 は週の最初の透析開始時の血清尿素窒素濃度 (g/L)、QB は血流量 (ml/分)、QD は透析液流量(ml/分)、KoA は尿素に関する総括物質移動面積係数 (ml/分) を示す。式 (5) では、ml/ 分単位の QB、QD および KoA から算出した V をリットル単位で表示するために、式全体を 1000 で割っている。また、KoAは、メーカーのダイアライザのカタログに記載されている尿素のクリアランスから表1に従って求める。
なお、上記の式を導く具体的な過程については文献 [1] を参照されたい。



 


以下に、山本の式を基に作成した新しいnPCR を求めるためのコンピュータ・プログラムを示す。
10 REM ***** nPCRプログラム *****
20 INPUT”カタログの尿素クリアランス(mL/分)=”;KS
30 IF 150=<KS AND KS=<179 THEN KOA =0.147*KS^2-39.574*KS+2974.9
40 IF 179<KS AND KS=<190 THEN KOA=0.789*KS^2-270.12*KS+23678
50 IF 190<KS AND KS=<197 THEN KOA=5.369*KS^2-2024.6*KS+191709
60 IF 197<KS AND KS=<200 THEN KOA=268.5*KS^2-106365*KS+10535363
70 INPUT”透析時間(hr)=”;T
80 TD=T*60
90 INPUT”血流量(mL/分)=”;QB
100 INPUT”透析液流量(mL/分)=”;QD
110 INPUT”透析前体重(kg)=”;BW1
120 INPUT”透析後体重(kg)=”;BW2
130 INPUT”透析前BUN(mg/dL)=”;CU1
140 CU1=CU1/100
150 INPUT”透析後BUN(mg/dL)=”;CU2



160 CU2=CU2/100
170 IF QD=QB THEN QD=QD+0.1
180 AA=1-EXP(KOA*(1/QB-1/QD))
190 BB=1/QD-1/QB*EXP(KOA*(1/QB-1/QD))
200 K=AA/BB
210 K=K*0.66
220 V=-K*TD/LOG(CU2/CU1) :’(ここでのLOGは自然対数)
230 V=V/1000
240 A=1.0171* (CU2/CU1- 0.000133*TD)^ 0.99
250 W1= (1-A)+ CU2/CU1*(1-A^2)
260 W2= 10080-3*TD+(A^2+A-2)*(2880-TD+TD/LOG(A)) :’ (ここでのLOGは自然対数)
270 GV=W1/W2*CU1
280 GV2=GV+(BW1-BW2)/V*CU1/(60*72-TD)
290 GV2=GV2*1000
300 R=V/BW2
310 PCR=9.35*R*GV2+0.29*R
320 PRINT”nPCR(g/kg/日)=”;PCR


 

5. BMI と尿素分布容積/体重比が 58% と一定であるとして求めた nPCR との関係
 

図4に示すように、BMI(x) と透析後体重 1 kg あたりの尿素分布容積 (y) との間には、以下に示す有意の負の相関が認められた (r=0.67、P<0.01)。
y = -0.871 x + 71.62
この結果は、BMI が大きい患者ほど、つまり太っている患者ほど、透析後体重 1 kg あたりの尿素分布容積が小さいことを示している。したがって、尿素分布容積 /体重比は 58% と一定であるとすると、尿素分布容積は BMI が高い患者で過大評価され、BMI が低い患者で過小評価されることになる。
上記の BMI(x) と透析後体重 1 kg あたりの尿素分布容積の比率 (y) との関係を示す上記の式によると、尿素分布容積 / 体重比が 58% のときの BMI は 15.6kg/? である。そして、平均的なBMIは 22kg/? なので、これは、尿素分布容積 / 体重比を 58% とすると、ほとんどの患者では nPCR が過大評価されることを意味している。


 
 
文献

1.  山本達生、新里高弘:nPCRを求めるための簡易式. 日本血液浄化技術学会会誌 20(3): 21-29, 2012.


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4.30 nPCRを求める簡易式

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4.30 nPCRを求める簡易式
nPCRを算出するためにしばしば用いられる Shinzato らが報告した式は、nPCR と同時にKt/Vも算出できるようになっているために複雑な形となっている。したがって、Shinzato らが報告した式を用いて nPCR を算出する場合には、既成のソフトウエアが必要である。すなわち、Shinzato らの式は実質的に全体がブラックボックスとなっており、この式をアレンジすることは実際には不可能である。
このような背景の下、最近、山本らは Shinzato らの式を基に Kt/V を切り離して nPCR だけを算出する簡易式を導いた。

図1 山本らのnPCRを求める式

(G/V)1(1−A) + R(1−A2)

-------------------------------------------------

10080−3 TD + (A+ A−2) [2880−TD+ TD/ln(A)]

ただし、A = 1.0171 ( R −0.000133 TD) 0.99
 (1)

(G/V)2  (G/V)1?BW×CS1
--------------------------
V4320−TD
 (2)

nPCR   9350 (G/V) 2×V
---------
BW
 (3)
この式は、図1に示すように、目に見える形で表示することができる程度に簡便である。したがって、この式に対しては、制作者以外が創意工夫を施すことも可能である。例えば、Shinzato らの式では、体液量は体重の 58% とされており、これを変更することはできなかった。しかし、山本らの式であれば、体液量を様々な方法で求めた別の数値に入れ替えることができる。なお、図1では、R は透析開始時における血清尿素濃度に対する透析終了時における尿素濃度の比(単位なし)、TD は透析時間(分)、(G/V)1は体重変化を無視した時の尿素産生速度(g/V/分)、(G/V)2は体重変化で補正された尿素産生速度(g/V/分)、Vは体液量(L)、BW は透析終了時の体重(kg)、Δ BW は透析中の体重減少量(kg)、CS1 は週の最初の透析開始時の血清尿素濃度(g/L)を示す(Shinzato らの式では、V=0.58 BW)。

図2に示すように、Shinzato らの式により算出した nPCR と山本らの式により算出した nPCR との間には、きわめて高度の直線関係があった。この結果は、Shinzato らの式により算出した nPCR と山本らの式により算出した nPCR は一致することを示している。
なお、山本らの式を導く具体的な過程については文献[1]を参照されたい。
 
図2 山本らの式により求めた nPCR と
       Shinzatoらの式により求めたnPCRの比較
文献

1.    山本達生、新里高弘:nPCRを求めるための簡易式. 日本血液浄化技術学会会誌 20(3): 14-20, 2012.


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4.29 リン吸着剤(炭酸ランタン)

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4.29 リン吸着剤(炭酸ランタン)

炭酸ランタン(商品名:ホスレノール錠)は、塩酸セベラマーと同様、カルシウムを含まないリン酸吸着剤である。炭酸ランタンは塩酸セベラマーよりもリン吸着作用が強く、かつ便秘を合併する頻度が低い。しかし、微量のランタンが骨、消化管および肝臓に蓄積するとの報告がある。
作用機序
食物に含まれるリン酸と炭酸ランタンを構成するランタンが胃の中で結合して、不溶性のリン酸ランタンが生成される。このようにして生成されたリン酸ランタンは解離することなく便中に排泄される。結果として、炭酸ランタンの服用により消化管からのリンの吸収が阻害される。
服用したランタンはこのように不溶性のリン酸ランタンとして糞便中に排泄されるため、消化管から吸収されるランタン量は極わずかである。そして、吸収されたランタンも主として胆汁を介して便中に排泄される。しかし、それでもなお、長期の炭酸ランタンの服用により、骨、消化管および肝臓にはランタンが蓄積する。
 
炭酸ランタン
  ホスレノール250mg,500mg
   (バイエル)

塩酸セベラマー
  フォスブロック錠250mg
   (キリン)
  レナジェル錠250mg
   (中外)
炭酸カルシウム
  炭カル(旭化成)
  カルタン(メルク・ホエイ)

吸着能の比較
炭酸ランタンは、胃内pHにかかわらず高いリン除去効果を示す。これに対し、炭酸カルシウムのリン除去効果は胃内pHが高くなるにしたがって(アルカリ性になるにしたがって)低下していく。したがって、ヒスタミンH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などの胃内pHを高く保つ薬剤を投与している場合であっても、炭酸ランタンは高いリン除去効果を維持する。
炭酸ランタン1,500mg/日の血清リン低下効果は、炭酸カルシウム(薬)3,000mg/日の血清リン低下効果におおよそ等しい。
 
 
用法及び用量
投与開始時には1日3回、1回250mgを食直後に経口投与する。
その後、症状、血清リン濃度をみながら投与量を増減する。投与量の上限は1日2,250mgとする。投与量を増やす場合には1週間以上の間隔をあけて、増加量は1日あたり750mg以下とする。
炭酸ランタンは胃の中で溶けにくい。そこで、炭酸ランタンの錠剤は飲み込む前に口の中で十分に噛み砕く。その後、唾液あるいは少量の水で飲み込む。
炭酸ランタンの投与を開始した場合、あるいは投与量を変更した場合には、1週間後を目安に血清リン濃度の変化を調べるのが望ましい。製薬会社の能書には、炭酸ランタンの投与後2週間が経過しても効果が認められない場合には、他の治療法に切り替えるよう指示されている。
 
 
副作用
承認時における国内の臨床試験では26.9%に副作用が認められている。具体的には、12.5%の患者に嘔吐、10.2%に悪心、3%に胃不快感が認められている。便秘は2.3%の患者に認められたにすぎない。
 
 

ヒスタミンH2ブロッカー≫
ファモチジン
  ガスター(アステラス)
ニザチジン  アシノン(ゼリア)
 
≪プロトンポンプ阻害薬≫

ランソプラゾール

  タケプロン(武田)
オメプラゾール  オメプラール(アストラ)
  オメプラゾン(吉冨)
ラベプラゾール
  パリエット(エーザイ)

投与にあたっての注意
1) 重度の肝機能障害を有する患者では、炭酸ランタンの投与は慎重におこなう。重度の肝機能障害では胆汁排泄が低下しており、ランタンは主に胆汁中に排泄されるからである。
2) 活動性消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸管狭窄のある患者では、炭酸ランタンの投与は慎重におこなう。炭酸ランタンの主な副作用が消化器症状であることによる。
3) テトラサイクリン系抗生物質(塩酸ミノサイクリン(薬)、塩酸ドキシサイクリン(薬)等)、ニューキノロン系抗菌剤(レボフロキサシン(薬)等)と炭酸ランタンとを同時に服用すると、これらの抗生物質あるいは抗菌剤の吸収が低下し、効果が減弱するおそれがある。これを防ぐため、これらの薬剤は炭酸ランタンの服用後2時間以上が経過してから服用する。
これは、これらの抗生物質あるいは抗菌剤とランタンとが不溶性の複合体を形成して、テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗菌剤の腸管からの吸収が妨げられることによる。
4) 炭酸ランタンを服用している患者の腹部X線写真には、ランタンが存在する胃腸管にバリウム様の陰影が認められることがある。

塩酸ミノサイクリン
  ミノマイシン(武田)
塩酸ドキシサイクリン
  ヒブラマイシン
   (ファイザー)
レボフロキサシン
  クラビット(第一三共)



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4.28 リン吸着剤(塩酸セベラマー)

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4.28 リン吸着剤(塩酸セベラマー)

1. 塩酸セベラマーの特徴

炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムを投与するにあたっては、投与された炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムのカルシウム部分がリンと結合してリン酸カルシウムとなり、これが便と共に排泄されることを期待している。しかし、実際には投与された炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムのカルシウム部分の一部は腸管内でリンと結合することなく、腸管壁から吸収されて、しばしば高カルシウム血症の原因となる。そのため、高リン血症をコントロールするのに十分な量の炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムを投与することができないことがある。このような問題を解決するために、カルシウムを含まないリン酸吸着剤である塩酸セベラマー(非吸収性ポリカチオン製ポリマー)が開発された。
最近、やはりカルシウムを含まないリン酸吸着剤である炭酸ランタンが発売になった。炭酸ランタンは塩酸セベラマーよりもリン吸着能が強い。


塩酸セベラマー
 フォスブロック錠250mg
     (キリン)
 レナジェル錠250mg
     (中外)

2. 塩酸セベラマーの投与法
これまでの臨床治験によると、塩酸セベラマーの初期投与量は、透析前血清リン濃度が 8.0 mg/dL未満の患者では1日3回、1回 1gを投与し、透析前血清リン濃度が 8.0 mg/dL以上の患者では1日3回、1回 2gを投与する。その後、透析前血清リン濃度が 3.5〜6.0 mg/dLとなるように、適宜投与量を増減させる。塩酸セベラマーは1日に最大 9g まで服用することが可能である。
 
3. 副作用
塩酸セベラマーの服用によりしばしば便秘が生じる。臨床治験報告によると、塩酸セベラマーの服用後4週間以内に 17.8% の患者で便秘が増悪している。塩酸セベラマーの服用による便秘に対しては、理論的には、ソルビトールなどの浸透圧下剤を同時に服用させるのがよいが、それだけでは便秘を防げないこともありうる。そのような場合には、ぜん動を促進する作用機序の下剤を投与する。
また、塩酸セベラマーは同時服用すると併用薬の吸収を遅延・減少させる可能性がある。そこで、併用薬については服用時間をずらすようにする。さらに、塩酸セベラマーにより脂溶性ビタミン(ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなど)や葉酸塩の吸収が阻害される可能性がある。したがって、塩酸セベラマーを長期間投与する場合には、これらの補給を考慮する。
 
4. 二次性副甲状腺機能亢進症の患者における塩酸セベラマーの投与
二次性副甲状腺機能亢進症の患者では、塩酸セベラマーの投与により血清カルシウム濃度を上昇させることなく血清リン濃度を下げることができる。そこで、二次性副甲状腺機能亢進症の患者では塩酸セベラマーの投与によりアルファカルシドール、カルシトリオール、マキサカルシトールあるいはファレカルシトリオールなどの活性型ビタミンD製剤の投与量を増やす余地が生じる。
 
5. 副甲状腺機能低下症の患者における塩酸セベラマーの投与
副甲状腺機能低下症の患者に高リン血症が認められた場合には、おそらく塩酸セベラマーに加えて炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムの適量を投与し、血清リン濃度だけでなく血清カルシウム濃度も適正な値にコントロールすべきであろう。しかし、このような症例に対する塩酸セベラマーの投与法に関しては未だ報告がみられない。
塩酸セベラマー投与後の透析前血清リン濃度の推移。Washoutありの群(n=61〜59)では、炭酸カルシウムや酢酸カルシウムなどのリン吸着剤を中止した後、しばらく時間をおいて血清リン濃度が上昇しきって安定してから塩酸セベラマーの投与が開始された。一方、washoutなしの群(n=93〜86)では、リン吸着剤を中止した後、直ちに塩酸セベラマーの投与が開始された。いずれの群でも、塩酸セベラマー投与開始時の血清リン濃度が 8.0 mg/dL未満の場合には1g/日の塩酸セベラマーが投与され、血清リン濃度が 8.0 mg/dL以上の場合には 2g/日の塩酸セベラマーが投与された。塩酸セベラマー投与開始後 8週目からは、血清リン濃度が 4〜6 mg/dLとなるように、塩酸セベラマーの投与量が増減された。
なお、塩酸セベラマー投与開始後 8週目からは、両群のデータをまとめてグラフに表示した。(製薬会社のパンフレットより)

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4.27 リン吸着剤(炭酸カルシウムと酢酸カルシウム)

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4.27 リン吸着剤(炭酸カルシウムと酢酸カルシウム)
  1.炭酸カルシウム
一般的に使用されるリン吸着剤は炭酸カルシウム(薬)である。炭酸カルシウムは、6.0mg/dl以下の透析前リン濃度を目標として、食中あるいは食直後に服用させる。6gの炭酸カルシウムの投与によっても、透析前リン濃度が6.0mg/dl以下に低下しない場合には、患者が指示どおりに薬を服用しているか、蛋白摂取量が多すぎないか、あるいはHブロッカーやプロントンポンプ阻害薬が投与されているのではないか調査してみる必要がある。Hブロッカーやプロントンポンプ阻害薬の投与により胃のpHがアルカリ側に傾いていると、炭酸カルシウムのリン吸着能が低下する。
炭酸カルシウム
  炭カル
  (旭化成)

  カルタン
  (メルク・ホエイ)
  2.酢酸カルシウム
 リン吸着剤としては、炭酸カルシウム以外に、しばしば酢酸カルシウム(薬) も使用される。酢酸カルシウムのリン吸着能は炭酸カルシウムの吸着能の約2倍とされている。酢酸カルシウムの投与法は、炭酸カルシウムの投与法と同様であるが、酢酸カルシウムのリン吸着能は炭酸カルシウムほどにはpHに影響されないので、Hブロッカーやプロントンポンプ阻害薬の投与を中止できないような場合には炭酸カルシウムを酢酸カルシウムに変更するのがよい。以前は、しばしばアルミゲルが使用されたが、アルミニウム蓄積をきたすので、現在は原則禁忌となっている。
酢酸カルシウム
 
 PHOS-EX ”YT”
  (ヴァイタリンコーポレーション) 
  3. 炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムの投与に伴う高カルシウム血症炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムを投与するにあたっては、投与された炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムのカルシウム部分はリンと結合してリン酸カルシウムとなり、便と共に排泄されることが期待されている。しかし、実際には投与された炭酸カルシウムあるいは酢酸カルシウムのカルシウム部分の一部はリンと結合せずに腸管から吸収され、しばしば高カルシウム血症の原因となる。
そこで、カルシウムを含まないリン吸着剤である塩酸セベラマーと炭酸ランタンが開発された。

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4.26 蛋白栄養状態を悪化させる要因

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4.26 蛋白栄養状態を悪化させる要因
1. 体蛋白質量の増減を決定する要素
蛋白栄養状態の定義である体蛋白質量は、体蛋白質の合成(同化)速度と分解(異化)速度によって決まる。すなわち、体蛋白質の合成速度よりも分解速度の方が大きければ、体蛋白質量は減少し、逆に体蛋白質の合成速度よりも分解速度の方が小さければ、体蛋白質量は増加する。当然、体蛋白質の合成速度と分解速度が等しければ、体蛋白質量は変化しない。
 

2. 体蛋白質の合成速度を低下させる因子

 a) 蛋白摂取量の減少
体蛋白質の合成速度に影響を与える最も大きな因子は、食事による蛋白摂取量である。蛋白摂取量が増加すれば、体蛋白質の材料であるアミノ酸が大量に供給されるために体蛋白質の合成速度は増し、蛋白摂取量が減少すれば、体蛋白質の材料であるアミノ酸の供給が減少するために体蛋白質の合成速度は低下する。
透析患者における蛋白摂取量の減少の原因には、食欲不振に加えて過大な体重増加や血清リン濃度の上昇を気にしての意図的な食事の抑制がある。食欲不振は、運動不足、鬱(うつ)状態あるいは消化器疾患などの様々な要因で生じる。分子量が1,000ないし5,000の血清分画に食欲不振を生じさせる尿毒症物質が存在するとの報告もある[1]。
糖尿病患者は、ときに「食欲がなく、また少し食べただけで満腹になる」と訴える。この症状の原因が胃不全麻痺(gastroparesis)であることがある[2]。胃不全麻痺では、胃ぜん動の低下のために食物の胃内への滞留時間が延長し、摂取した食物の吸収が遅れ、食欲が低下する。早朝空腹時に胃内視鏡検査で前の晩に摂取した食物を胃内に認めれば、胃不全麻痺の存在は確実である。胃不全麻痺の治療については別の項で述べる。
 b) 透析液中へのアミノ酸の喪失
透析液にはアミノ酸が含まれていないため、透析中には透析液中にアミノ酸が喪失する。例えば、ポリスルホン膜(PS膜)を用いた場合には1回の透析で約6〜10 gのアミノ酸が喪失すると報告されている[3]。
なお、透析液へのアミノ酸の喪失は、Kt/Vが増大するとともに増加していく。Kt/Vが高すぎるときに死亡のリスクが増大する理由の少なくともひとつは、透析液中へのアミノ酸喪失の増加かもしれない。
 c) 運動不足
筋肉トレーニングにより筋肉量が増大することはよく知られている。すなわち、運動は体蛋白質量(筋肉量)を増やす有効な方法のひとつであると思われる。しかし、虚血性心疾患の存在や患者の意欲の低下などの理由で、積極的な運動療法を体蛋白質量を増やす手段として用いるのは現実的には困難であると思われる。
 

3. 体蛋白分解(蛋白異化)を促進する因子
体蛋白質の分解を促進する因子には、(1)尿毒症物質の蓄積、(2)代謝性アシドーシス、(3)カロリー摂取不良、(4)運動不足、(5)マクロファージによるサイトカインの分泌、(6) 炎症の存在などがある。透析患者では、しばしば、上記の体蛋白質の分解を促進する因子の中のいくつかが存在するために体蛋白質の分解が亢進している状態にある。
a) カロリー摂取量の減少
蛋白摂取量とカロリー摂取量との間には強い相関が認められる。したがって、食欲不振は蛋白摂取量の低下の原因となるだけでなく、カロリー摂取量の低下の原因ともなる。カロリー摂取量が不足すると、まずエネルギー源として体内に蓄えられている糖質や脂質が利用される。そして、これらの蓄えが減少していくと、次には体蛋白質の分解が促進され、エネルギー源として利用されるようになる。その結果、体蛋白質量は減少する。
なお、上述のように、通常、カロリー摂取量が減少する場合には、同時に蛋白摂取量も減少するので、体蛋白質の合成速度も低下する。
b) 代謝性アシドーシス
代謝性アシドーシスは体蛋白質の分解を促進すると報告されている。体蛋白質の分解にはいくつかの経路があるが、それらのうちubiquitinを介するATP依存性蛋白分解経路がアシドーシスにより刺激されるとされている[4]。また、アシドーシスによりアルブミン合成が低下するとの報告もある[5]。
c) 透析液から体内へのエンドトキシンの移行
エンドトキシンは、マクロファージのサイトカイン分泌を刺激する。サイトカインは体蛋白質の分解を促進する。したがって、エンドトキシンにより高度に汚染された透析液を使用すると、体蛋白質の分解が促進される可能性がある。とくに、ハイパファーマンス膜を使用している場合には、透析液から体内へのエンドトキシンの移行量が増大する。
d) 膜の生体適合性
透析膜は補体を活性化し、またマクロファージのサイトカイン分泌を促進する。透析膜と血液との接触により補体が活性され、あるいはサイトカインが遊離すると、蛋白異化が促進される可能性があるが、その証拠を直接示した報告はまだ存在しない。再生セルロース膜はポリアクリロニトリル膜(PAN膜)、ポリメチルメタクリレート膜(PMMA膜)、エチレンビニルアルコール膜(EVAL膜)、ポリスルホン膜(PS膜)、ポリアミド膜(PA膜)、ポリエステル系ポリマーアロイ膜(PEPA膜)などの合成膜や酢酸セルロース膜(CA膜)に比して補体を活性化し、あるいはマクロファージのサイトカイン分泌を刺激する作用が強い。
e) 炎症の存在
CRPなどの急性相蛋白の産生亢進時には、血清アルブミン濃度の低下やクレアチニン産生量が減少する。このことから、炎症と栄養障害との間には密接な関係の存在する可能性が指摘されている[6]。
 

4. 至適蛋白摂取量
蛋白摂取量が増えるとリンや塩分の摂取量も増加する。ところが、血清リン濃度が高いと死亡のリスクが増大する。また、体重増加率が増大するとやはり死亡のリスクは増大する。さらに、蛋白摂取量が多いほど、毒性のある尿毒症物質の産生量は増えると思われる。これらは蛋白摂取量を増やした際のマイナス要因でる。一方、蛋白摂取量が増えると、体蛋白質の合成速度が増大して体蛋白質量が増加する。これは蛋白摂取量を増やした際のプラス要因である。これらの蛋白摂取のマイナス要因とプラス要因のバランスの上で至適蛋白摂取量が決定されると考えられる。
死亡のリスクを最小にするnPCR値、すなわち至適nPCR値が患者ごとに異なるのは、このような理由によるのだろう(nPCR値は蛋白摂取量を反映する)。リン吸着剤の投与あるいは透析による効率的なリンの除去により食事量が増えても血清リン濃度がさほど上昇しないようにし、あるいは薄味の食生活にして食事量が増えても体重増加率がさほど大きくならないようにすれば、至適nPCR値(至適蛋白摂取量)は上昇して生命予後はさらに改善されるものと考えられる。

 
 
文献
1.      Bergström J, Mamoun H, Anderstram B, et al.: Nutrition and adequacy of dialysis. How do hemodialysis and CAPD compare? Kidney Int. 43(Suppl 40): S39-S50, 1993.
2.      Horowitz M, Fraser R: Disordered gastric motor function in diabetes mellitus. Diabetologia. 37: 543-551, 1994.
3.      Ikizler TA, Flakoll PJ, Parker RA, et al.: Amino acid and albumin losses during hemodialysis. Kidney Int 46: 830-837, 1994.
4.      Bailey JL, Wang X, England BK, et al.: The acidosis of chronic renal failure activates muscle proteolysis in rats by augmenting transcription of genes encoding proteins of theATP-dependent ubiquitin-proteosome pathway. J Clin Invest 97: 1447-1453, 1996.
5.      Ballimer PE, McNurlan MA, Hulter HN, et al: Chronic metabolic acidosis decreases albumin synthesis and induces negative nitrogen balance. J Clin Invest 95: 39-45, 1995.
6.      Stenvinkel P, Heimbiirger O, Paultre F, et al.: Strong association between malnutrition, inflammation, and atherosclerosis in chronic renal failure. Kidney Int 55: 1899-1911, 1999.


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4.25 体蛋白質量の指標

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4.25 体蛋白質量の指標
体蛋白質量が減少するとき、全臓器の蛋白質量が均等に減少するのではない。体蛋白質量が減少するのに伴ってもっとも大きく減少するのは皮膚を形成する蛋白質と筋肉を形成する蛋白質である。言い換えると、筋肉量は体蛋白質量のよい指標となる。筋肉量を反映する%クレアチニン産生速度が蛋白質栄養状態の指標として有用なのは、この理由による。また、体蛋白質量が減少すると、体蛋白質のひとつであるアルブミンの産生も低下すると考えられる。したがって、透析前血清アルブミン濃度もしばしば蛋白質栄養状態の指標として用いられる。しかし、%クレアチニン産生速度と血清アルブミン濃度とがまったく同じ情報を示しているのではないことを示唆する報告がある[1]。


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4.24 蛋白代謝とエネルギー代謝の接点

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4.24 蛋白代謝とエネルギー代謝の接点

蛋白摂取量が減少すると、材料不足のため体蛋白質量の合成速度が低下し、その結果、体蛋白質量の合成速度よりも分解速度の方が大きくなって、体蛋白質量は減少する。つまり、蛋白栄養不良状態が出現する。
さて、糖質や脂肪の摂取量が減少すると、体内ではエネルギー不足となり、これを補うためにまず肝臓に蓄えられていたグリコーゲンが分解して血中にブドウ糖が放出され、ブドウ糖は様々な細胞に到達してエネルギー源として利用される。激しい運動の際には、筋肉のグリコーゲンがブドウ糖に分解して、これがエネルギー源として利用される。グリコーゲンの次には脂肪組織に蓄えられていた中性脂肪がエネルギー源として利用される。すなわち、中性脂肪はリパーゼ(中性脂肪分解酵素)の働きにより脂肪酸に分解され、これが血中に放出されて諸細胞に到達しエネルギー源として利用される。それと同時に、体蛋白質の一部がアミノ酸に分解されてエネルギー源として利用される。すなわち、体蛋白質が分解して生じたアミノ酸はアミノ基を離してケト酸となり、ケト酸はミトコンドリアに移行して、ブドウ糖の代わりにエネルギー源として利用される。その他、糖質や脂質の摂取量が不足している場合には、体蛋白質の分解によって生じ、血中に放出されたアミノ酸の中、アラニンが肝臓に取り込まれてブドウ糖の代わりにグルコーゲンの材料として使われる。
このようにカロリー摂取量が不足している場合には、糖質や脂肪の代わりに体蛋白質がエネルギー源として利用されるので、体蛋白質の分解が促進されて体蛋白質量が減少する。ただし、このときには、同時に体脂肪量も減少し、いわゆる著明な痩せが生じる。

参考までに、通常は蛋白摂取量とカロリー摂取量とは比例しており、蛋白摂取量だけ、あるいはカロリー摂取量だけが減少することはまれである。すなわち、カロリー摂取量が不足している場合には、蛋白摂取量も減少しているのが普通である。


ただし、ときに体蛋白質量のみを増やし、体脂肪量を減らしたいスポーツマンやダイエットを行っている単純肥満の患者が、特殊食として高蛋白・低カロリー食を摂ったり、保存期腎不全患者や非代償性肝不全患者が治療食として低蛋白・高カロリー食を摂っていることはある。 

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4.23 蛋白・エネルギー代謝の概観

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4.23 蛋白・エネルギー代謝の概観
1) エネルギー代謝の概観
図に示すように、我々が摂取した糖質は、エネルギー源として直ちに利用される他、グリコーゲンとして一時的に肝臓や筋肉に蓄えられる。ただし、糖質の摂取量が過剰となりグリコーゲンの貯蔵量が限界を超えると、余分な糖質は中性脂肪に変換されて脂肪組織に蓄えられる。一方、我々が摂取した脂質は、エネルギー源として直ちに利用される他、中性脂肪として脂肪細胞に蓄えられる。
肝臓のグリコーゲンは必要に応じてブドウ糖に分解されて血中に放出される。血中のブドウ糖はインシュリンの存在下に様々な細胞に取り込まれて細胞内のミトコンドリアで酸化され、エネルギー源として利用される。一方、脂肪組織に蓄えられている中性脂肪は、やはり必要に応じて脂肪酸に分解されて脂肪酸として血中に放出され、様々な細胞内に取り込まれた後、L-カルニチンの存在下にミトコンドリア内に移行して酸化され、エネルギー源として利用される。
2) 蛋白代謝の概観
我々が摂取した蛋白質は、腸管でアミノ酸に分解され、アミノ酸は腸管壁から吸収されて血中に入る。このようにして体内に入ったアミノ酸は体蛋白質の合成(同化)に用いられる。
さて、我々の体を形成する蛋白質(体蛋白質)は、その一部が絶えずアミノ酸に分解(異化)され、一方では絶えずアミノ酸から新しく合成(同化)されている。すなわち、体蛋白質は常に新しいものに置き換わっている。したがって、食事による蛋白質の摂取量が減少して体蛋白質の材料が不足するために体蛋白質の合成が低下するか、あるいは何らかの理由で体蛋白質の分解が増大すると、体蛋白質量は減少し始める。また、逆に食事による蛋白質の摂取量が増加して体蛋白質の材料が豊富に供給されるために体蛋白質の合成が増大するか、あるいは何らかの理由で体蛋白質の分解が減少すると、体蛋白質量は増加し始める。
このように、体蛋白質の合成速度よりも分解速度の方が大きければ、体蛋白質量は減少し、逆に体蛋白質の合成速度よりも分解速度の方が小さければ、体蛋白質量は増加する。当然、体蛋白質の合成速度と分解速度が等しければ、体蛋白質量は変化しない。そして、体蛋白質量が異常に少ない状態を蛋白栄養不良状態という。
なお、食事で摂取した蛋白質に由来するアミノ酸だけが体蛋白質の合成に利用されるのではなく、体蛋白質の分解により生じたアミノ酸も体蛋白質の合成に再利用される。そして、体蛋白質の分解により生じたアミノ酸および食事で摂取した蛋白質に由来するアミノ酸の中、体蛋白質の合成に利用されなかったアミノ酸は尿素に変換される。


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4.22 個々の患者の至適nPCR(2)

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4.22 個々の患者の至適nPCR(2)
1. ガイドラインを適応できない可能性のある患者の見分け方
179人の維持透析患者において、ロジスティック回帰分析法により決定した「死亡のリスクを最小にするnPCR値」とnPCR値以外の多数のパラメータの実測値との関係を重回帰分析により調べたところ、透析前血清リン濃度、Kt/V、食事の塩辛さ(INa/nPCR)、%クレアチニン産生速度が「死亡のリスクを最小にするnPCR値」と有意に相関することがわかった。
下記の表に示す重回帰式の係数を基に行った計算によると、「死亡のリスクを最小にするnPCR値」は、透析前リン濃度が1 mg/dl上昇するごとに0.060 g/kg/day低下、two-pool Kt/Vが0.1増すごとに0.020 g/kg/day増大、%クレアチニン産生速度が10%増すごとに0.010 g/kg/day増大、そして食事の塩辛さ(塩分摂取量/nPCR)が0.1増大するごとに0.154 g/kg/day低下した。
至適nPCR値の大小に影響を与える因子
(至適nPCR値を含む様々なパラメータ値の重回帰分析の結果)

各パラメータの変化
nPCR値の変化量死亡のリスクを最小にする  P値
男性に対して女性では -0.037 0.1815
年齢が1歳増すごとに -0.0020.115
透析時間が1分延長するごとに-0.0190.2794
透析前リン濃度が1mg/dL上昇するごとに-0.060 <0.0001
血清アルブミン濃度が0.1 g/dL上昇するごとに  0.0020.6317
体重増加率が1%増大するごとに  0.0070.4484
two-pool Kt/Vが0.1増すごとに  0.0200.0079
%クレアチニン産生速度が10%増すごとに  0.0100.0274
食事の塩辛さ(Ina/nPCR)が0.1増すごとに-0.154<0.0001
赤字は、有意の相関のあることを示す(P値が0.05以下)。INa/nPCRのINaは、透析前後の血清ナトリウム濃度および体重増加量から算出した透析間における体内へのNaCl蓄積量である。


2. 多数のパラメータの実測値から、「個々の患者の死亡のリスクを最小にするnPCR値」を推定する式
上記の表は、透析前リン濃度、Kt/V値、食事の塩辛さ(塩分摂取量/nPCR)が平均的な患者における値と大きく異なる場合には、ガイドラインの適応に慎重でなければならないことを示している。
すなわち、透析前リン濃度の高い患者、Kt/Vが低い患者、あるいは塩辛い食事を摂っている患者では、そうでない患者よりも至適蛋白摂取量が低い。とくに塩辛い食事を摂っている患者では蛋白摂取量は比較的少なめでなければならない。また、透析前リン濃度の低い患者、Kt/Vが高い患者、あるいは薄味の食事を摂っている患者では、逆に至適蛋白摂取量はそうでない患者よりも高い。
このように、透析前リン濃度、Kt/V値、食事の塩辛さなどによって異なる「死亡のリスクを最小にするnPCR値」を各透析施設でそれぞれの患者について算出するのは、実際上不可能である。透析百科の姉妹編である透析ナビゲータでは、すべての定期検査データを解析することにより、個々の患者の「死亡のリスクを最小にするnPCR値」を算出し報告するサービスを提供している。
重回帰分析により決定した下記の「死亡のリスクを最小にするnPCR値」とnPCR値以外の多数のパラメータの実測値との間の関係式に各パラメータの実測値を代入すると、それぞれの患者の「死亡のリスクを最小にするおおよそのnPCR値」を推定することができる。
おおよそのnPCR値(g/kg/日)= 1.436- 0.037 S - 0.002 Y - 0.001 T - 0.060 Pi

+ 0.016 Alb + 0.007 dBW + 0.199 Kt/Vdp + 0.001 CGR - 1.539 INa/nPCR

ただし、
   Sは性別に関する変数であり、男性では1、女性では2とする
 Y:年齢 (歳)
 T:透析時間 (分)
 Pi:透析前リン濃度 (mg/dL)
 Alb:透析前血清アルブミン濃度 (g/dL)
 dBW:体重増加率 (%)、体重増加量を透析後体重で割ることにより求める
 Kt/Vdp:two-pool Kt/V
 CGR=%クレアチニン産生速度
 INa/nPCR:食事の塩辛さを示す変数


4.21 L-カルニチン欠乏の症状

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4.21 L-カルニチン欠乏の症状
1. 心臓
L-カルニチン不足が高度であれば心機能は著明に低下するが、中等度以下のL-カルニチン不足では、他のエネルギー産生機序によりL-カルニチン不足が代償されるので、心機能障害は現れない。すなわち、透析患者にみられる程度のL-カルニチン不足では、L-カルニチンの投与により心筋細胞の脂肪酸代謝異常は改善されるものの、心収縮力の増大は生じない[1]。しかし、少量のL-カルニチンの長期投与により心肥大の退縮が認められたとの報告がある[2]。また、L-カルニチン投与により、透析中に発生する不整脈が抑制されたとの報告もある[3]。
 
2. 筋肉
Sakurabayashiらは、透析患者30名に対し、500 mgのL-カルニチンを12週間の投与し、2/3の患者に筋肉症状(倦怠感、筋痙攣、筋肉痛)の改善が認められたと報告している[4]。
 
3. 貧血
Matsumuraらは、赤血球膜の浸透圧に対する抵抗性は血中のL-カルニチン濃度が低いほど低下すると報告している[5]。また、L-カルニチンの投与により、エリスロポエチン抵抗性貧血が改善したとの報告もある[6]。
 
3. 脂肪製剤の投与にともなう脂肪酸代謝異常
中心静脈栄養により、あるいは透析中に脂肪製剤を投与すると、体内のL-カルニチンが不足している患者では、心筋細胞内に脂肪酸が蓄積し、これが心筋細胞のエネルギー産生を阻害する。これを防ぐために、透析患者への中心静脈栄養の際、あるいは透析中に栄養補給の目的で脂肪製剤を投与する際には、その 2〜3 時間前にL-カルニチンを投与することを勧める。
 
4. L-カルニチンの補充療法
本邦においては、腎不全患者へのL-カルニチン投与は保険薬価に収載されていない。透析患者がL-カルニチンを服用する場合には、患者自身で健康食品として市販されているL-カルニチンを購入しなければならない。L-カルニチンは(株)ヴァイタリン・コーポレーションから1錠に200 mgを含有するカルニ・リチン 200 “KM”が、ベータ食品(株)から1本あたり、50 mgを含有する50 ml入りのドリンクであるカルフェロ、また杏林製薬から4粒あたり240 mgを含む「L-カルニチン」が発売されている。
現時点では、L-カルニチンの投与量に関する合意はできていない。L-カルニチンの投与量については、500mgが適当であるとの報告[4]から2000mgが適当であるとの報告[7]まで、様々な報告がある。臨床効果や経済的な点も考え合わせると、L-カルニチンの投与量は500 mg/day程度でよいのではないかと思われる。
 
 
 
文献
1.      Sakurabayashi T, et al.: Improvement of myocardial fatty acid metabolism through L-carnitine administration to chronic hemodialysis patients. Am J Nephrol 19: 480-484, 1999.
2.      Sakurabayashi T, et al.: Low dose, long-term supplement of L-carnitine decreases left ventricular mass in chronic hemodialysis patients. J Am Soc Nephrol. 10: 267 A, 1999.
3.      Suzuki Y, et al.: Effect of L-carnitine on arrhythmias during hemodialysis. Jpn Heart J 23: 349-359, 1982.
4.      Sakurauchi Y, et al.: Effects of L-carnitine supplementation on muscular symptoms in hemodialyzed patients. Am J Kidney Dis. 32: 258-264.
5.      Matsumura M, et al.: Correlation between serum carnitine levels and erythrocyte osmotic fragility in hemodialysis patients. Nephron 72: 574-578, 1996.
6.      Laboria WD: L-carnitine effects on anemia in hemodialyzed patients treated with erythropoietin. Am J Kidney Dis. 26: 757-764, 1995.
7.      Bellinghieri G, et al.: Correlation between increased serum and tissue L-carnitine levels and improved muscule symptoms in hemodialyzed patients. Am J Clin Nutr. 38: 523-531, 1983.


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4.20 L-カルニチン欠乏

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4.20 L-カルニチン欠乏
L-カルニチンは、肝臓と腎臓で産生されて血液中に放出され、またL-カルニチンを多く含む肉の摂取にともなって腸管から血液中に吸収される。
このように、L-カルニチンは、主に肝臓で、次いで腎臓でも産生されるが、実際にはリジンとメチオニンを材料にして産生されたトリメチルリジンから、腎臓でL-カルニチンの原材料であるブチロベタインが産生され、これが血流に乗って肝臓に到達し、肝臓におけるL-カルニチンの産生に用いられるのである[1]。したがって、透析患者では、腎臓だけでなく肝臓におけるL-カルニチン産生も減少している可能性がある。
また、透析患者では、しばしば食事制限や食欲不振のためL-カルニチンそのものや原料であるリジンとメチオニンの摂取量が減少している。表には、代表的な食材のL-カルニチン含有量を示す[2]。
以上のように、透析患者では、L-カルニチンの産生が減少しており、またしばしば、食事制限や食欲不振のためL-カルニチンそのものや原料であるリジンとメチオニンの摂取が減少している。さらに、これらに加えて、透析患者では一回の透析で血漿中のL-カルニチンの70〜80%が除去される。そこで、多くの透析患者では体内のL-カルニチン量が不足していると思われる。実際、多くの報告を整理すると[3,4]、日本の透析患者のL-カルニチン濃度は、健常人の60%程度にすぎないようである。
透析患者にしばしば認められる不整脈、心肥大、倦怠感の一部には、このような体内のL-カルニチン量の不足が関係している可能性がある。すなわち、L-カルニチン不足のため、心筋細胞や骨格筋細胞では脂肪酸がエネルギー源として利用されず、そのために、あるいは細胞質に蓄積した脂肪酸によるエネルギー産生の障害のために、不整脈、心肥大、倦怠感が生じる可能性がある。
 
食品中のL-カルニチン含有量
食品名100g当たりのカルニチン含有量
牛肉(テンダロイン)59.8 mg
牛肉(  肩  )67.4 mg
牛肉(  臀部  )61.6 mg
羊肉208.9 mg
鶏肉4.55〜9.10 mg
牛乳1.9 mg
鶏卵0.8 mg
パン0.2 mg
 
 
 
文献
1.      Carter A, et al.: The role of the kidney in the biosysthesis of carnitine in the rat. J Biol Chem. 254: 10670-10674, 1979.
2.      前田憲志:カルニチンの生理的意義. 臨床透析. 16: 159-165, 2000.
3.      Rössle C, et al.: An improved method for the determination of free and esterified carnitine. Clin Chim Axta. 149: 263-268, 1985.
4.     松本芳博、他:透析患者のカルニチン欠乏. 現代医学. 35: 431-438, 1998.


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