4.22 個々の患者の至適nPCR(2)

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4.22 個々の患者の至適nPCR(2)
1. ガイドラインを適応できない可能性のある患者の見分け方
179人の維持透析患者において、ロジスティック回帰分析法により決定した「死亡のリスクを最小にするnPCR値」とnPCR値以外の多数のパラメータの実測値との関係を重回帰分析により調べたところ、透析前血清リン濃度、Kt/V、食事の塩辛さ(INa/nPCR)、%クレアチニン産生速度が「死亡のリスクを最小にするnPCR値」と有意に相関することがわかった。
下記の表に示す重回帰式の係数を基に行った計算によると、「死亡のリスクを最小にするnPCR値」は、透析前リン濃度が1 mg/dl上昇するごとに0.060 g/kg/day低下、two-pool Kt/Vが0.1増すごとに0.020 g/kg/day増大、%クレアチニン産生速度が10%増すごとに0.010 g/kg/day増大、そして食事の塩辛さ(塩分摂取量/nPCR)が0.1増大するごとに0.154 g/kg/day低下した。
至適nPCR値の大小に影響を与える因子
(至適nPCR値を含む様々なパラメータ値の重回帰分析の結果)

各パラメータの変化
nPCR値の変化量死亡のリスクを最小にする  P値
男性に対して女性では -0.037 0.1815
年齢が1歳増すごとに -0.0020.115
透析時間が1分延長するごとに-0.0190.2794
透析前リン濃度が1mg/dL上昇するごとに-0.060 <0.0001
血清アルブミン濃度が0.1 g/dL上昇するごとに  0.0020.6317
体重増加率が1%増大するごとに  0.0070.4484
two-pool Kt/Vが0.1増すごとに  0.0200.0079
%クレアチニン産生速度が10%増すごとに  0.0100.0274
食事の塩辛さ(Ina/nPCR)が0.1増すごとに-0.154<0.0001
赤字は、有意の相関のあることを示す(P値が0.05以下)。INa/nPCRのINaは、透析前後の血清ナトリウム濃度および体重増加量から算出した透析間における体内へのNaCl蓄積量である。


2. 多数のパラメータの実測値から、「個々の患者の死亡のリスクを最小にするnPCR値」を推定する式
上記の表は、透析前リン濃度、Kt/V値、食事の塩辛さ(塩分摂取量/nPCR)が平均的な患者における値と大きく異なる場合には、ガイドラインの適応に慎重でなければならないことを示している。
すなわち、透析前リン濃度の高い患者、Kt/Vが低い患者、あるいは塩辛い食事を摂っている患者では、そうでない患者よりも至適蛋白摂取量が低い。とくに塩辛い食事を摂っている患者では蛋白摂取量は比較的少なめでなければならない。また、透析前リン濃度の低い患者、Kt/Vが高い患者、あるいは薄味の食事を摂っている患者では、逆に至適蛋白摂取量はそうでない患者よりも高い。
このように、透析前リン濃度、Kt/V値、食事の塩辛さなどによって異なる「死亡のリスクを最小にするnPCR値」を各透析施設でそれぞれの患者について算出するのは、実際上不可能である。透析百科の姉妹編である透析ナビゲータでは、すべての定期検査データを解析することにより、個々の患者の「死亡のリスクを最小にするnPCR値」を算出し報告するサービスを提供している。
重回帰分析により決定した下記の「死亡のリスクを最小にするnPCR値」とnPCR値以外の多数のパラメータの実測値との間の関係式に各パラメータの実測値を代入すると、それぞれの患者の「死亡のリスクを最小にするおおよそのnPCR値」を推定することができる。
おおよそのnPCR値(g/kg/日)= 1.436- 0.037 S - 0.002 Y - 0.001 T - 0.060 Pi

+ 0.016 Alb + 0.007 dBW + 0.199 Kt/Vdp + 0.001 CGR - 1.539 INa/nPCR

ただし、
   Sは性別に関する変数であり、男性では1、女性では2とする
 Y:年齢 (歳)
 T:透析時間 (分)
 Pi:透析前リン濃度 (mg/dL)
 Alb:透析前血清アルブミン濃度 (g/dL)
 dBW:体重増加率 (%)、体重増加量を透析後体重で割ることにより求める
 Kt/Vdp:two-pool Kt/V
 CGR=%クレアチニン産生速度
 INa/nPCR:食事の塩辛さを示す変数