4.32 リン摂取量を推定する式
1. 原理
透析によるリン除去量とリンの経口摂取量との間には、何らかの関係があるはずだとの仮定の下、リン吸着薬を服用していない16名の患者でリンの動態モデルを解析することにより求めた透析によるリン除去量(x mg/HD/body)と厳密に評価したリンの経口摂取量(y mg/day/body)との関係を調べた。その結果、両者間には図1と式(1)に示す関係が認められた。
y = 0.91 x + 157.87 (1)
もし対象患者がリン吸着薬を服用していないなら、式(1)の x にリンの動態モデルを解析することにより求めた透析によるリン除去量を代入すれば、リンの経口摂取量が算出されるはずである。もし対象患者がリン吸着薬を服用しているなら、式(1)により算出された値にリン吸着薬に吸着されたリン吸着量を加えることによりリンの経口摂取量が得られることになる。
2. 透析によるリン除去量の求め方
透析によるリン除去量を決定する因子は血清リン濃度、ダイアライザのリン・クリアランス、透析時間の3つである。そして、1分間に透析で除去されるリンの量は、その時点での血清リン濃度とダイアライザのリン・クリアランス の積として求められる。さらに、このようにして求めた透析中の各 1分間あたりのリン除去量をすべて加えていったものが透析による総リン除去量である。
a.血清リン濃度
図2には、透析中、30分おきに測定した血清リン濃度を示す。図2に示すように、血清リン濃度は、透析中の最初の90分間は指数関数的に低下し、その後は透析終了 時まで透析開始後 90 分の濃度が続く。
したがって、透析開始から 90 分間については、時間 t(分)における血清リン濃度は式 (2)により示される。
P(t) = Ps・exp(-Kp×t/Vp ) (2)
ただし、P(t) は透析中の時間 t における血清リン濃度(mg/ml)、Ps は透析開始時の血清リン濃度(mg/ml)、Kp は透析中のリン・クリアランス(ml/分)、Vp はリンの分布容積(ml)を示す。
一方、透析開始後 90分目から透析終了時までの間については、時間 t における血清リン濃度は式 (3)により示される。
P(t) = Pe (3)
ただし、Pe は透析終了時の血清リン濃度(mg/ml)を示す。
図2には、透析中、30分おきに測定した血清リン濃度を示す。図2に示すように、血清リン濃度は、透析中の最初の90分間は指数関数的に低下し、その後は透析終了 時まで透析開始後 90 分の濃度が続く。
したがって、透析開始から 90 分間については、時間 t(分)における血清リン濃度は式 (2)により示される。
P(t) = Ps・exp(-Kp×t/Vp ) (2)
ただし、P(t) は透析中の時間 t における血清リン濃度(mg/ml)、Ps は透析開始時の血清リン濃度(mg/ml)、Kp は透析中のリン・クリアランス(ml/分)、Vp はリンの分布容積(ml)を示す。
一方、透析開始後 90分目から透析終了時までの間については、時間 t における血清リン濃度は式 (3)により示される。
P(t) = Pe (3)
ただし、Pe は透析終了時の血清リン濃度(mg/ml)を示す。
b.ダイアライザのリン・クリアランス
透析中のリン・クリアランスは Klein の式を用いて血流量 (QB ml/ 分)、透析液流量 (QD ml/ 分)、およびリンに関する総括物質移動係数 KoA(ml/分)から算出する[1]。
透析中のリン・クリアランスは Klein の式を用いて血流量 (QB ml/ 分)、透析液流量 (QD ml/ 分)、およびリンに関する総括物質移動係数 KoA(ml/分)から算出する[1]。
1 - exp[KoA(1/QB - 1/QD)] | ||
Kp =
| ------------------------------------------------ | (4) |
1/QD - 1/QB×exp[KoA(1/QB -1/QD)] |
ただし、リンに関する総括物質移動係数 KoA は、血流量 200ml/分、透析液流量 500ml/分の下でのダイアライザのリン・クリアランス (K ml/分)を式(4)に代入し、この式を書き換えることにより導いた以下の式により求める。
KoA=ln(Z)/(1/200 -1/500) (5)
ただし、Z=(1-K/500)/(1-K/200)
なお、血流量 200ml/分、透析液流量 500ml/分の下でのダイアライザのリン・クリアランス K には、メーカーのダイアライザのカタログに記載されている値を使用する。
c.透析によるリン除去量
透析によるリン除去量は各 1分間あたりのリン除去量を透析中についてすべて加えていくことにより求める。これを言い換えると、透析によるリン除去量は単位時間当たりのリン除去量を透析開始時から終了時まで積分することにより求められる。
さて、透析開始から 90 分間の任意の 1分間に除去されるリンの量は、式(2)にリン・クリアランス Kp(ml/分)を掛け合わせたものである。
E(t) = Kp×Ps exp(-Kp×t/Vp ) (6)
そして、透析開始後 90 分間に除去されるリンの量 (TE1 mg)は、式(6)を t=0からt=90 まで積分することにより得られる。
TE1 = Ps×Vp [1- exp(-90 Kp/Vp )] (7)
一方、透析開始後 90 分目から透析終了時までの間の任意の1分間に除去されるリンの量は、式(3)にリン・クリアランス Kp を掛け合わせたものである。
E(t) = Kp×Pe (8)
そして、透析開始後 90 分目から透析終了時までの間に除去されるリンの量 (TE2 mg)は、式(8)を t=90 から t=Td まで積分することにより得られる。ただし、Td は透析時間(分)である。
TE2= Kp×Pe (Td- 90) (9)
そこで、透析中に除去されるリンの総量 TE(mg)は、TE1と TE2 を加えることにより求められる。
TE = Ps×Vp [1- exp(-90 Kp/Vp )] + Kp×Pe (Td - 90) (10)
透析によるリン除去量は各 1分間あたりのリン除去量を透析中についてすべて加えていくことにより求める。これを言い換えると、透析によるリン除去量は単位時間当たりのリン除去量を透析開始時から終了時まで積分することにより求められる。
さて、透析開始から 90 分間の任意の 1分間に除去されるリンの量は、式(2)にリン・クリアランス Kp(ml/分)を掛け合わせたものである。
E(t) = Kp×Ps exp(-Kp×t/Vp ) (6)
そして、透析開始後 90 分間に除去されるリンの量 (TE1 mg)は、式(6)を t=0からt=90 まで積分することにより得られる。
TE1 = Ps×Vp [1- exp(-90 Kp/Vp )] (7)
一方、透析開始後 90 分目から透析終了時までの間の任意の1分間に除去されるリンの量は、式(3)にリン・クリアランス Kp を掛け合わせたものである。
E(t) = Kp×Pe (8)
そして、透析開始後 90 分目から透析終了時までの間に除去されるリンの量 (TE2 mg)は、式(8)を t=90 から t=Td まで積分することにより得られる。ただし、Td は透析時間(分)である。
TE2= Kp×Pe (Td- 90) (9)
そこで、透析中に除去されるリンの総量 TE(mg)は、TE1と TE2 を加えることにより求められる。
TE = Ps×Vp [1- exp(-90 Kp/Vp )] + Kp×Pe (Td - 90) (10)
d.リンの分布容積
式(10)により透析中に除去されるリンの総量を求めようとすると、リンの分布容積 Vp が必要になる。リンの分布容積 Vp(ml) を求める式は、式(2)に t=90、P(90)=Pe を代入して、これを書き換えることにより導く。
Vp = - 90×Kp/ln(Pe/Ps) (11)
式(10)により透析中に除去されるリンの総量を求めようとすると、リンの分布容積 Vp が必要になる。リンの分布容積 Vp(ml) を求める式は、式(2)に t=90、P(90)=Pe を代入して、これを書き換えることにより導く。
Vp = - 90×Kp/ln(Pe/Ps) (11)
3. リン摂取量の求め方
a.リン吸着薬を服用していない場合
まず、透析前後の血清リン濃度(PsとPe mg/ml)、透析時間(Td 分)、式(4)により求めたダイアライザのリン・クリアランス(Kp ml/分)、式(10)により求めたリンの分布容積(Vp ml)を式(10)に代入して透析中に除去されたリンの総量を求める。次に、このようにして求めた透析によるリン除去量を式(1)に代入する。これにより、リン吸着薬を服用していない場合のリン摂取量(mg/日)が得られる。
まず、透析前後の血清リン濃度(PsとPe mg/ml)、透析時間(Td 分)、式(4)により求めたダイアライザのリン・クリアランス(Kp ml/分)、式(10)により求めたリンの分布容積(Vp ml)を式(10)に代入して透析中に除去されたリンの総量を求める。次に、このようにして求めた透析によるリン除去量を式(1)に代入する。これにより、リン吸着薬を服用していない場合のリン摂取量(mg/日)が得られる。
b.リン吸着薬を服用している場合
リン吸着薬を服用している患者のリン摂取量(mg/日)を求める場合には、リン吸着薬を服用していないという前提で式(1)により求めたリン摂取量(mg/日)に、1日に服用 したリン吸着薬に吸着されたリンの量(mg)を加えなければならない。
リン吸着薬に吸着されるリンの量(mg)は次の方法により求める。炭酸カルシウム 1g にはリン 45mg が吸着されるとされている。また、1g あたりのリン吸着量の各薬剤の比は以下のように考えられている。
炭酸Ca:セベレマー:ランタン=1 : 0.75 : 2
そこで、以上を基に各リン吸着量1錠に吸着されるリンの量を算出する。
炭カル1錠(500mg)に吸着されるリンの量:22.5 mg
塩酸セベレマー1錠(250mg)に吸着されるリンの量:8.4375 mg
ホスレノール1錠(250mg)に吸着されるリンの量:22.5 mg
キックリン1錠(250mg)に吸着されるリンの量:8.4375 mg
上記のリン吸着薬 1錠に吸着されるリンの量と実際に服用しているリン吸着薬の錠数から、服用しているリン吸着薬に吸着されたリンの量(mg)を推定し、これをリン吸着薬を服用していないという前提で式(1)により求めたリン摂取量(mg/日)に足して、補正されたリン摂取量を求める。
リン吸着薬を服用している患者のリン摂取量(mg/日)を求める場合には、リン吸着薬を服用していないという前提で式(1)により求めたリン摂取量(mg/日)に、1日に服用 したリン吸着薬に吸着されたリンの量(mg)を加えなければならない。
リン吸着薬に吸着されるリンの量(mg)は次の方法により求める。炭酸カルシウム 1g にはリン 45mg が吸着されるとされている。また、1g あたりのリン吸着量の各薬剤の比は以下のように考えられている。
炭酸Ca:セベレマー:ランタン=1 : 0.75 : 2
そこで、以上を基に各リン吸着量1錠に吸着されるリンの量を算出する。
炭カル1錠(500mg)に吸着されるリンの量:22.5 mg
塩酸セベレマー1錠(250mg)に吸着されるリンの量:8.4375 mg
ホスレノール1錠(250mg)に吸着されるリンの量:22.5 mg
キックリン1錠(250mg)に吸着されるリンの量:8.4375 mg
上記のリン吸着薬 1錠に吸着されるリンの量と実際に服用しているリン吸着薬の錠数から、服用しているリン吸着薬に吸着されたリンの量(mg)を推定し、これをリン吸着薬を服用していないという前提で式(1)により求めたリン摂取量(mg/日)に足して、補正されたリン摂取量を求める。
4. リン摂取量を計算するコンピュータ・プログラム(個人の使用のみ可)
参考までに、リン摂取量を求めるコンピュータ・プログラムを記載する。
10 REM ***** リン摂取量のプログラム *****
20 QB=200
30 QD=500
40 INPUT”カタログのリン・クリアランス(mL/min)=”; KK
50 Z=(1-KK/QD)/(1-KK/QB)
60 KOAP=LN(Z)/(1/QB-1/QD)
70 INPUT”透析時間(hr)=”;T
80 TD=T*60
90 INPUT”血流量(mL/min)=”;QB
100 INPUT”透析液流量(mL/min)=”;QD
110 INPUT”透析前リン濃度(mg/dL)=”;PS
120 PS=PS*10
130 INPUT”透析後リン濃度(mg/dL)=”;PE
140 PE=PE*10
150 INPUT”ヘマトクリット(%)=”;HT
160 INPUT”1日あたりの炭酸カルシウム 500mg 摂取量 (錠)=”;RR
170 INPUT”1日あたりの塩酸セベレマー 250mg 摂取量(錠)=”;SS
180 INPUT”1日あたりの炭酸ランタン 250mg 摂取量(錠)=”;TT
190 INPUT”1日あたりのビオサロマー 250mg 摂取量(錠)=”;WW
200 QSER=0.93*QB*(1-HT/100)
210 AA=1-EXP(KOAP*(1/QSER-1/QD))
220 BB=1/QD-1/QSER*EXP(KOAP *(1/QSER-1/QD))
230 KP=AA/BB
240 KP=KPS000
250 VP=-90*KP/LN(PE/PS)
260 EP= PS*VP*(1-EXP(-90*KP/VP))+KP*PS*EXP(-90*KP/VP)*(TD-90)
270 AP=0.9054*EP+157.87
280 IP= AP+113.5*RR+42.5*SS+113.5*TT+ 42.5*WW
290 PRINT”リン摂取量(mg/日)=”;IP
300 END
文献
1. Klein E: Evaluation of hemodialyzers and dialysis menbrane,No.(NIH)77-1294,DHEW Pub.1977
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