1.5 TACBUN(Time-Averaged Concentration of BUN)
1.TACBUNの定義
血清尿素濃度は、透析時には尿素の除去のために低下し、非透析時には尿素の産生のために上昇する。すなわち、血清尿素濃度は一週間をとおして下降と上昇を繰り返す。この下降と上昇を繰り返す血清尿素濃度を一週間をとおして時間的に平均したものが TACBUN である。
TACBUN を正確に求めるためには、週 3 回のそれぞれの透析前後の血清尿素濃度をすべて測定し、これら6つの血清尿素濃度を一週間をとおして時間平均する。
2.TACBUNの算出法
a.透析後の血清尿素濃度と次の透析前の血清尿素濃度から TACBUN を求める方法
血清尿素濃度を一週間をとおして時間平均するために、週 3 回のそれぞれの透析の前後に血清尿素濃度を測定するのは、臨床的に現実的ではない。そこで、しばしば、週の最初の透析後血清尿素濃度と週の2度目の透析前血清尿素濃度から式(1)を用いて近似値が算出される。
血清尿素濃度を一週間をとおして時間平均するために、週 3 回のそれぞれの透析の前後に血清尿素濃度を測定するのは、臨床的に現実的ではない。そこで、しばしば、週の最初の透析後血清尿素濃度と週の2度目の透析前血清尿素濃度から式(1)を用いて近似値が算出される。
TACBUN(mg/dl)=
|
(週始め透析後BUN+週2度目透析前BUN)/2
| (1) | ||
b.平均尿素産生速度と平均尿素クリアランスから TACBUN を求める方法 平均尿素産生速度と平均尿素クリアランスの比からも TACBUN を算出することができる。これは以下の事実に基づく。
体内での尿素産生速度(G)も体内からの尿素除去速度(E)も一定である平衡状態では、体内からの尿素除去速度は体内での尿素産生速度に等しい。もしそうでなければ、体内には尿素が無限に蓄積するようになるか、あるいは尿素がまったく存在しなくなるだろう。
| ||||
G = E | (2) | |||
一方、尿素除去速度は体内の尿素濃度(C)と尿素クリアランス(K)との積に等しい。 | ||||
E = K×C | (3) | |||
式(3)を式(2)に代入すると明らかなように、平衡状態では尿素除去速度は尿素濃度と尿素クリアランスの積に等しい。 | ||||
G = K×C | (4) | |||
式(4)を書き換えると、平衡状態では、尿素濃度は尿素産生速度を尿素クリアランスで割った値であることを示す以下の式が得られる。 | ||||
C = |
G
| (5) | ||
K
| ||||
安定した透析患者では、一週間における尿素産生量は一週間における尿素除去量に等しいとして式(5)を透析患者に当てはめると、式(6)が得られる。 | ||||
TACBUN =
|
一週間の平均尿素産生速度
| (6) | ||
一週間の平均尿素クリアランス | ||||
そして、式(6)に示す概念に基づいて、TACBUN(mg/dl)を求める式が作成されている[1]。 | ||||
TACBUN ≒ | (G/V)×(T/n) | (7) | ||
(Kt /V)
|
ただし、 | |||||
Kt/V=
|
- ln (
|
Ce
|
)
| ||
Cs |
G/V =
|
Cns – Ce
| ||
Tint
|
ここで、V(dl)は体液量、T は1週間の総時間(168hr)、n は1週間の透析回数(3回)、Tint(hr)は透析終了時から次の透析の開始時までの時間、Cs(mg/dl)は透析開始時の尿素窒素濃度、Ce(mg/dl)は透析終了時の尿素窒素濃度、Cns(mg/dl)は次回の透析の開始時の尿素窒素濃度を示す。
さらに、式(6)に示す概念に基づいて、除水にともなって体液量が減少していく 1-コンパートメントモデル を解析して得られるKt/VとnPCRからTACBUN を求めることもできる。Kt/V と nPCR から TACBUN を求める式は、具体的には以下の方法により導かれる。
G/v(mg/week/mL)を1週間あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素窒素産生量、K/v(mL/week/mL) を1週間あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素クリアランスとすると、式(5)は以下のように書き換えられる。
TACBUN = | G/v | (8) | |||||||||
K/v | |||||||||||
ここで、式(8)における G/v (mg/week/mL) を1分あたり、単位体液量(L)あたりの尿素窒素産生量である g/V(mg/min/L) に、K/v(mL/week/mL) を1分あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素クリアランスである k/v(mL/min/mL)に変換する。 | |||||||||||
G/v =
| g/V×60×24×7/1000 | (9a) | |||||||||
K/v=
| k/v×60×4×3 | (9b) | |||||||||
式(9a)と式(9b)を式(8)に代入すると、以下の式が得られる。 | |||||||||||
TACBUN = | G/v | = | g/v×60×24×7/1000 | = | 10.080 g/v | (10) | |||||
K/v | k/v×60×4×3 | 720 k/v | |||||||||
一方、Borah らによると、nPCR と g/v との間には以下の関係がある[2]。 | |||||||||||
nPCR = | (9.35 g/v + 0.29)×0.55 | (11a) | |||||||||
式(11a)を書き換えると、 | |||||||||||
g/v = | 0.1944 nPCR – 0.0310 | (11b) | |||||||||
さらに、Kt/V は k/v と透析時間の積である。 | |||||||||||
Kt/V= | k/v×TD | (12a) | |||||||||
したがって、 | |||||||||||
k/v = | Kt/V | (12b) | |||||||||
TD | |||||||||||
式(11b)と式(12b)を(10)に代入すると、nPCR と Kt/V から TACBUN を求める式が得られる。 | |||||||||||
TACBUN (mg/ml) = |
0.00272 nPCR – 0.00043
| TD | (13a) | ||||||||
Kt/V
| |||||||||||
あるいは | |||||||||||
TACBUN (mg/dl)= |
0.2722 nPCR – 0.0434
|
TD
| (13b) | ||||||||
Kt/V
|
ただし、上記の式のKt/V(単位なし)とnPCR(g/kg/day)は透析医学会の計算シートにより算出されるパラメータであり、TD は分単位の透析時間である。
3. 至適TACBUN
現時点では、多数の患者のデータを多変量解析することにより TACBUN の至適な値を決定した報告はない。式(13)が示すように、TACBUN は蛋白摂取量の指標である nPCR と透析量の指標である Kt/V のふたつによって決定される。そこで、たとえ TACBUN が同じ値であっても、高い nPCR に高い Kt/V の組み合わせである場合と低い nPCR に低い Kt/V の組み合わせである場合とがあり得る(図)。したがって、たとえ同じ値の TACBUN であっても、nPCR と Kt/V の組み合わせしだいで、死亡のリスクに与えるインパクトは異なるかもしれない。もしそうであれば、死亡のリスクを最小にする独立した指標としての TACBUN 値というものは存在しないことになる。
文献
1. 峰島三千男: 3.5 血液浄化療法の治療指標. (編集:透析療法合同専門委員会編集委員会)血液浄化療法ハンドブック(改定第5版). 2008, 8-45, 協同医書出版社, 東京.
2. Borah MF, et al: Nitrogen balance during intermittent dialysis therapy of uremia. Kidney Int 1978; 14; 491-500