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2024年診療報酬改定【透析関連】②

中央社会保険医療協議会 総会(第 581 回) 議事次第 令和6年1月 26 日(金)  

【Ⅲ-5 生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の 取組推進-④】

 ④ 慢性腎臓病の透析予防指導管理の評価の新設

第1 基本的な考え方

 慢性腎臓病に対する重症化予防を推進する観点から、慢性腎臓病患者 に対して多職種連携による透析予防の管理を行うことについて、新たな 評価を行う。

第2 具体的な内容

 慢性腎臓病の患者に対して、透析予防診療チームを設置し、日本腎臓 学会の「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン」等に基づき、患者 の病期分類、食塩制限及び蛋白制限等の食事指導、運動指導、その他生 活習慣に関する指導等を必要に応じて個別に実施した場合の評価を新設する。

 (新) 慢性腎臓病透析予防指導管理料

 1 初回の指導管理を行った日から起算して●●年以内の期 間に行った場合 ●●点

 2 初回の指導管理を行った日から起算して●●年を超えた 期間に行った場合 ●●点

[対象患者]

 入院中以外の慢性腎臓病の患者(糖尿病患者又は現に透析療法を行 っている患者を除く。)であって、透析を要する状態となることを予防 するために重点的な指導管理を要する患者

[算定要件]

(1) 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして 地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、慢性腎臓病の患 者(糖尿病患者又は現に透析療法を行っている患者を除き、別に厚 生労働大臣が定める者に限る。)であって、医師が透析予防に関する 指導の必要性があると認めた入院中の患者以外の患者に対して、当 該保険医療機関の医師、看護師又は保健師及び管理栄養士等が共同 して必要な指導を行った場合に、月●●回に限り算定する。

(2) 区分番号B001の9に掲げる外来栄養食事指導料及び区分番 号B001の 11 に掲げる集団栄養食事指導料は、所定点数に含ま れるものとする。 

(3) 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして 地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、慢性腎臓病透析 予防指導管理料を算定すべき医学管理を情報通信機器を用いて行 った場合は、1又は2の所定点数に代えて、●●点又は●●点を算 定する。

 [施設基準]

(1) 当該保険医療機関内に、以下から構成される慢性腎臓病透析予防 診療チームが設置されていること。

 ア 慢性腎臓病指導の経験を有する専任の医師

 イ 慢性腎臓病指導の経験を有する専任の看護師又は保健師

 ウ 慢性腎臓病指導の経験を有する専任の管理栄養士

(2) (1)のアに掲げる医師は、慢性腎臓病の予防指導に従事した経験 を5年以上有する者であること。

(3) (1)のイに掲げる看護師は、慢性腎臓病の予防指導に従事した経 験を3年以上有する者であること。

(4) (1)のイに掲げる保健師は、慢性腎臓病の予防指導に従事した経 験を2年以上有する者であること。

(5) (1)のウに掲げる管理栄養士は、慢性腎臓病の栄養指導に従事し た経験を3年以上有する者であること。

(6) (1)ア、イ及びウに掲げる慢性腎臓病透析予防診療チームに所属 する者のいずれかは、慢性腎臓病の予防指導に係る適切な研修を修了 した者であることが望ましいこと。

(7) (2)から(4)までに規定する医師、看護師又は保健師のうち、少な くとも1名以上は常勤であること。

(8) (2)から(5)までに規定する医師、看護師又は保健師及び管理栄 養士のほか、薬剤師、理学療法士が配置されていることが望ましいこ と。

(9) 腎臓病教室を定期的に実施すること等により、腎臓病について患 者及びその家族に対して説明が行われていること。ただし、当該教室 は区分番号B001「26」糖尿病透析予防指導管理料に規定する糖尿 病教室の実施により代えることとしても差し支えない。ただし、腎臓 病についての内容が含まれる場合に限る。

(10) 慢性腎臓病透析予防指導管理料を算定する場合は、様式を用いて、 患者の人数、状態の変化等について、報告を行うこと。

(11) 慢性腎臓病透析予防指導管理料を算定すべき医学管理を情報通信 機器を用いて行う場合に係る厚生労働大臣が定める施設基準 情報通信機器を用いた診療を行うにつき十分な体制が整備されて いること。



2024年診療報酬改定【透析関連】①

中医協 総-1 6 .1 .12  

令和6年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)

【留意事項】 この資料は、令和6年度診療報酬改定に向けて、これまでの議論の整理を 行ったものであり、今後の中央社会保険医療協議会における議論により、必 要な変更が加えられることとなる。 なお、項目立てについては、令和5年 12 月 11 日に社会保障審議会医療 保険部会・医療部会において取りまとめられた「令和6年度診療報酬改定の 基本方針」に即して行っている。

~中略~

Ⅲ-5 生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進

 (1) 生活習慣病に対する質の高い疾病管理を推進する観点から、生活習慣病 管理料について要件及び評価を見直すとともに、特定疾患療養管理料につ いて対象患者を見直す。(Ⅱ-5(1)再掲) 

(2) リフィル処方及び長期処方の活用並びに医療 DX の活用による効率的 な医薬品情報の管理を適切に推進する観点から、特定疾患処方管理加算 の評価を見直す。(Ⅱ-5(2)再掲) 

(3) かかりつけ医機能の評価である地域包括診療料等について、かかりつけ 医と介護支援専門員との連携の強化、かかりつけ医の認知症対応力向上、 リフィル処方及び長期処方の活用、適切な意思決定支援及び医療 DX を推 進する観点から、要件及び評価を見直す。(Ⅱ-5(3)再掲) 

(4) 慢性腎臓病に対する重症化予防を推進する観点から、慢性腎臓病患者に 対して多職種連携による透析予防の管理を行うことについて、新たな評価 を行う。 

(5) 薬剤師による充実した薬学管理を推進し、質の高い薬物療法が適用でき るようにするため、地域における医療機関と連携して行う、調剤後の薬学 管理に係る評価を見直す。(Ⅱ-7(7)再掲) 



平成30年度(2018)【ダイアライザー機能分類】

平成30年度(2018)【ダイアライザー機能分類】


平成30年(2018)からダイアライザーの償還価格が変わりました。相変わらず前回よりマイナスが目立ちます。

それでは機能分類別の価格です。

【ダイアライザー】
Ⅰa型 1.5㎡未満 ¥1,510(¥-80)
Ⅰa型 1.5㎡以上 ¥1,520(¥-10)
Ⅰb型 1.5㎡未満 ¥1,610(¥±0)
Ⅰb型 1.5㎡以上 ¥1,490(¥-160)
Ⅱa型 1.5㎡未満 ¥1,440(¥-160)
Ⅱa型 1.5㎡以上 ¥1,540(¥-130)
Ⅱb型 1.5㎡未満 ¥1,600(¥±0)
Ⅱb型 1.5㎡以上 ¥1,620(¥-120)
 S型 1.5㎡未満 ¥1,610(¥-50)
 S型 1.5㎡以上 ¥1,630(¥-30)
特定積層型 ¥5,780(±0)

【ヘモダイアフィルター】
ヘモダイアフィルター ¥2,750(¥-60)

ダイアライザー及びヘモダイアフィルターは年々技術が向上し性能もいい。生体適合性もいい。凝固もしない。
その技術全てはメーカーの企業努力による賜物であります。商品価値が著しく向上しているのに、材料費の償還価格は下がっていく。

2016 年度診療報酬改定 -具体的な保険点数提示-


■ 2016 年度診療報酬改定 -具体的な保険点数提示-


中央社会保険医療協議会(中医協)は、2月 10 日、医療サービスや薬の公定価格となる
2016 年度診療報酬改定案を厚生労働大臣に答申しました。

□ 人工腎臓の適正な評価(一律マイナス 20 点)


1 慢性維持透析を行った場合 (現行) → (改定案)
 イ 4時間未満の場合 2,030 点 2,010 点
 ロ 4時間以上5時間未満の場合 2,195 点 2,175 点
 ハ 5時間以上の場合 2,330 点 2,310 点

2 慢性維持透析濾過(複雑なもの)を行った場合 2,245 点 2,225 点

「人工腎臓」の点数には、透析液や血液凝固阻止剤、生理食塩水、エリスロポエチ ン製剤が含まれています。今回の改定では、医薬品などの「薬価」はマイナス 1.33% とされ、「人工腎臓」については、当初より、包括化されているエリスロポエチン等の 実勢価格が下がっていることを踏まえ、評価を適正化(引下げ)する、としていまし た。この一律マイナス 20 点(200 円)の引き下げが、今後の透析治療や医療現場の環 境に何らかの影響が出るのか、全腎協では注視していく予定です。



□ 人工透析患者の下肢末梢動脈疾患重症化予防(月 1 回に限り 100 点加算)


(改定案)
別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして届け出た保険医療機関
において、人工透析患者の下肢末梢動脈疾病のリスクを評価し、療養上必要な指導管
理を行った場合は、診療録に記録した場合限り、下肢末梢動脈疾患指導管理加算とし
て、月1回を限度として所定点数に 100 点を加算する。

[施設基準]
① 慢性維持透析を実施している患者全員に対し、「血液透析患者における心血管
合併症の評価と治療に関するガイドライン」等に基づき、下肢動脈の触診や下
垂試験・挙上試験等を実施した上で、虚血性病変が疑われる場合には足関節上
腕血圧比(ABI)検査又は皮膚組織灌流圧(SPP)検査によるリスク評価を行っ
ていること。

② ABI 検 査 0.7 以下又は SPP 検査 40mmHg 以下の患者については、患者や家族
に説明を行い、同意を得たうえで、専門的な治療体制を有している保険医療機
関へ紹介を行っていること。

③ ①及び②の内容を、診療録に記載していること。
④ 連携を行う専門的な治療体制を有している保険医療機関を定め、地方厚生局に届け出ていること。

透析患者の閉塞性動脈硬化症などの下肢末梢動脈疾病について、下肢の血流障害 を適切に評価した場合など、新しく加算がつくことになります。透析患者の足の血 流障害は、高齢化による動脈硬化や長期透析による血管の石灰化などにより、近年 増えていると言われています。しびれや冷感、また症状がなく進行していることあ るため、今回の加算の新設によって、足病変の早期発見、重症化予防につながるこ とが期待されます。


□その他
○湿布薬について、外来患者に対して 1 処方について計 70 枚を超えて投薬する場合 は、超過分の薬剤料は算定しない。ただし、医師が医学的に必要があると判断し、 やむを得ず計 70 枚を超えて投薬する場合には、その理由を処方箋および診療報酬明 細書に記載することで算定可能とする。

○短期間で退院可能な手術・検査について、入院 5 日目までに行われたすべての医療 行為を包括して支払う仕組みとなっている「短期滞在手術等基本料 3」では、在宅医 療(指導管理料、薬剤料、特定保険医療材料)、人工腎臓、造血ホルモン剤は包括範 囲から除外。

○糖尿病性腎症の患者が重症化し、透析導入となることを防ぐため、進行した糖尿病 性腎症の患者に運動指導を行い、一定水準以上の成果を出している保険医療機関に 対する加算(100 点)を新設。


平成30年度(2018)【ダイアライザー機能分類】


2016 年度診療報酬改定 -具体的な保険点数提示-

平成28年度(2016) ダイアライザー機能分類

【ダイアライザー機能分類2016】【メーカー別】

下肢末梢動脈疾患指導管理加算【透析フットケア加算】




2.4 赤血球造血刺激因子製剤(ESA; Erythropoiesis-stimulating agents)に対して低反応性の貧血

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2.4 赤血球造血刺激因子製剤(ESA; Erythropoiesis-stimulating agents)に対して低反応性の貧血
1.ESA低反応性貧血あるいはESA抵抗性貧血の定義
エポエチン(EPO)を週3回、1回3000単位(週当たり9000単位)静注しているにもかかわらず、あるいはダルベポエチンエン(薬)を週1回、60μg静注しているにもかかわらず、目標ヘモグロビン濃度(10-11g/dl)を達成できない場合に、このような貧血をESA 低反応性貧血あるいは ESA 抵抗性貧血と定義する[1]。
 
 
ダルベポエチン アルファ

ネスプ
(キリン)
2.ESA低反応性あるいはESA抵抗性の指標

週当たりのエポエチン投与量を透析後体重(kg)とそのときの血液ヘモグロビン濃度(g/dl)で割った値をESA抵抗性(ERI; Erythropoiesis resistance index/erythropoiesis-stimulating agents resistance index)の指標とするよう提案されている。
ERI=週当たりのエポエチン投与量(U/週)/ [透析後体重(kg) x  血液ヘモグロビン濃度(g/dl)]

以上は、エポエチンを使用している患者でのESA抵抗性の指標であるが、これをダルベポエチンを使用している患者にも適用できるように、1 週間あたりの μg 単位のダルベポエチン投与量に 200 を掛け合わせた値は 1 週間あたりのエポエチン投与量(国際単位)と等価であると仮定して、 ダルベポエチンに対する抵抗性が算出されている。
ERI=週当たりのダルベポエチン投与量(U/週) x 200/ [透析後体重(kg) x  血液ヘモグロビン濃度(g/dl)]
近年、より長時間作用型のエポエチンベータペゴル(CERA)が臨床使用されるようになった。しかし、エポエチンベータペゴルのエポエチンへの換算比率はまだ確立されていない。
いずれにしても、それぞれの ESA 間の力価換算比率はかならずしも正確なものではない。したがって、エポエチンの ERI とダルベポエチンの ERI を比較する場合には、ダルベポエチンからエポエチンへの力価換算比率は必ずしも正確なものではないことを念頭に置いておく必要がある。日本透析医学会統計調査ではダルベポエチンやエポエチンベータペゴルの投与量をエポエチン投与量に換算することなく、ダルベポエチンやエポエチンベータペゴルの週当たりの投与量そのものを用いて ERI を算出している[2]。
 
 
3.ERIに影響をあたえる因子[2-7]
ERIとの間に有意の関連が認められる因子、すなわちESA低反応性貧血の原因となり得る因子に関して、多くの研究結果が報告されている。

a.糖尿病、悪性腫瘍、脳血管障害を有する患者ではERIが高い。すなわち、これらの合併症を有する患者ではESAに対する反応が悪い。
b.多くの報告で、低アルブミン血症の患者ではERIが高いことが示されている。
c.鉄飽和率(TSAT)が低い患者、フェリチン値が低い患者ではERIが高い。すなわち、ESAに対する反応が悪い。
d.血清CRP値とERIとの間に関連があるという報告と関連がないという報告がある。通常、上昇した血清CRP値は短期間で正常化することが多いが、ERIに対するその影響は比較的長く続く。したがって、調査をおこなったタイミングしだいで、両者に関連 がみられたり、みられなかったりするのかもしれない。
e.過去にはKt/Vを増大させるとエポエチン必要量が減少するとの報告が多かった。しかし、近年はKt/VとERIとの間に相関がみられないとの報告が多い。Kt/V値があるレベル以上に上昇すると、透析量の増大はもはやESAに対する反応性にそれ以上の良い効果を及ぼさないのかもしれない。
f.ACE阻害剤やアンジオテンシン?受容体ブロッカーはESAに対する反応性を低下させ、スタチン、アスピリン、セベラマーはESAに対する反応性を上昇させることがあると報告されている。
 

 
 
参考論文
1.  2008年度版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」. 透析会誌 41: 661-716, 2008.
2.  日本透析医学会統計調査委員会編:我が国の慢性透析療法の現況(2012年12月31日現在), 日本透析医学会, 2013.
3.    Lopez-Gomez JM, Portoles JM, Aljama P: Factors that condition the response to erythropoietin in patients on hemodialysis and their relation to mortality. Kidney Int 74: S75-S81, 2008.
4.    Panichi V, et al: Amaemia and resistance to erythropoiesis-stimulating agents as prognostic factors in haemodialysis patients: results from the RISCAVID study. Neprol Dial Transplant 26: 2641-2648, 2011.
5.    Fujiwara T, et al: Time-dependent resistance to erythropoiesis-stimulating agent and mortality in hemodialysis patients in Japan dialysis outcomes and practice patterns study. Nephron Clin Pract 122: 24-32, 2012.
6.    Mallick S, et al: Factors predicting erythropoietin resistance among maintenance hemodialysis patients. Blood Purif 33: 238-244, 2012.

7.    樋口輝美、他:血液透析患者のerythropoiesis-stimulating agents (ESAs)低反応性に関する検討. 透析会誌 46:641-649, 2013.

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2.3 ヘマトクリット値の上昇と透析効率

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2.3 ヘマトクリット値の上昇と透析効率
腎性貧血の患者への遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(rHuEPO)の投与によりヘマトクリット値が上昇すると、クレアチニン、リン、カリウムのダイアライザー・クリアランスがいくらか低下し、これらの物質の血漿濃度はいくらか上昇する。これは、ダイアライザーを流れる血流量が不変でも、血漿流量は低下するためである。ただし、尿素については、赤血球膜を自由に通過するため、クリアランスは血漿流量低下の影響を受けない。すなわち、Kt/Vはヘマトクリットの変化の影響を受けない[1]。

ヘマトクリット値と、諸物質のダイアライザー・クリアランス

 
 
文献

1. Buur T, et al: Secondary effects of erythropoietin treatment on metabolism and dialysis efficiency in stable hemodialysis patients. Clin Nephrol 34: 230, 1990.

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2.2 心疾患患者の目標ヘモグロビン濃度

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2.2 心疾患患者の目標ヘモグロビン濃度

1.大規模調査の結果
Besarabらは、うっ血性心不全あるいは虚血性心疾患を有する1233名の透析患者を無作為に2群に分け、一方の群の目標ヘモグロビン濃度を14g/dL(ヘマトクリット値にして42%)、他方の群の目標ヘモグロビン濃度を 10g/dL(ヘマトクリット値にして30%)として遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(rHuEPO)を投与した(NHCT study)。ところが、目標ヘモグロビン濃度を14g/dL とした群で、目標ヘモグロビン濃度に到達する前に、すでに死亡率が有意に上昇したため、29ヶ月で研究は中止となった[1]。それぞれの患者群の中では、ヘモグロビン濃度が高いほど死亡率が低かったことから、高いヘモグロビン濃度のみが死亡率の上昇の理由とは考えにくいとされている[2]。

目標ヘマトクリット値と死亡・心筋梗塞のリスクの関係

一方、ヘモグロビン濃度の変動が心血管系合併症の原因であるとの報告もある[3]。例えば、ヘモグロビン濃度が急激に低下する際に心血管系の合併症が多発する。この結果は、エポエチン-アルファ、エポエチン-ベータ、ダルベポエチン-アルファなどの造血刺激因子製剤(ESA)の減量は緩徐におこなう必要があることを示唆している。


2.目標ヘモグロビン濃度
上記の結果は、うっ血性心不全あるいは虚血性心疾患を有する腎性貧血の血液透析患者に遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤を投与する際にも、目標ヘモグロビン濃度は通常どおりでよいことを示している。
 
 
 
文献
1. Besarab A, et al: The effects of normal as compared with low hematocrit values in patients with cardiac disease who are receiving hemodialysis and epoetin. N Engle J Med 339: 584, 1998.
2. Adamson JW, et al: Erythropoietin for end-stage renal disease (editorial). N Engle J Med 339: 625, 1998.

3. http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/07/briefing/2007-4315b1-01-FDA.pdf. 11 Jun 2008.

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2.1 目標ヘモグロビン濃度

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2.1 目標ヘモグロビン濃度


1. ヘモグロビン濃度とヘマトクリット
透析分野では、伝統的に貧血の指標にヘマトクリット値を使用することが多い。しかし、透析以外の分野では、ほとんどの場合、貧血の指標にヘモグロビン濃度を使用する。透析の分野でも、近年、ヘマトクリット値に代わってヘモグロビン濃度を使用する傾向にある。ヘモグロビン濃度に 3 を掛るとおおよそのヘマトクリット値が得られ、あるいはヘマトクリット値を 3 で割るとおおよそのヘモグロビン濃度が得られる。


2. 造血刺激因子製剤(ESA)
エポエチンアルファやエポエチンベータなどの遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(rHuEPO)の開発により、腎性貧血の改善が可能となった 。

         
その後、ヒトエリスロポエチン製剤にもダルベポエチンアルファなどの第2世代が現れ、これにともなってヒトエリスロポエチン製剤(EPO)という名称に代わって第2世代をも包括する造血刺激因子製剤(ESA)の名称が用いられるようになった。

 

エポエチン アルファ

  (遺伝子組換え)epoetin alfa
エスポー
(キリン)
エポエチン ベータ
  (遺伝子組換え)epoetin beta
エポジン
(中外)
ダルベポエチン アルファ
ネスプ
(キリン)
エポエチンベータペゴル
           ミルセラ
           (中外)


3. 血液透析患者の目標ヘモグロビン濃度
2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」では、週3回の血液透析を受けている患者に対して以下のようなESA 療法における目標ヘモグロビン濃度を推奨している[1]。
a. 週の最初の血液透析前に仰臥位で採血した場合、推奨する目標ヘモグロビン濃度は 10〜11 g/dL(ヘマトクリット値にして 30%〜33%)である。ヘモグロビン濃度が 12 g/dL(ヘマトクリット値にして 36%)を超えた場合には ESA を減量あるいは休薬する。
b. ESA の投与開始は、複数回の検査でヘモグロビン濃度が10 g/dL未満(ヘマトクリット値にして 30%未満)であった場合とする。
c. 活動性の高い比較的若年者では、目標ヘモグロビン濃度を11〜12 g/dL(ヘマトクリット値にして 33%〜36%)とする。ヘモグロビン濃度が 13g/dLを超えた場合には ESAを減量あるいは休薬する。ESA の投与開始は、複数回の検査でヘモグロビン濃度が 11 g/dL未満(ヘマトクリット値にして 33%未満)であった場合とする。
なお、心疾患を合併している患者では、高過ぎるヘモグロビン濃度で死亡のリスクが増大するとの報告がある。このような患者では、ヘモグロビン濃度が高くなりすぎないように気をつける必要がある。
 
 
4. 透析導入前の腎不全患者やCAPD患者の目標ヘモグロビン濃度
血液透析患者では非透析時における体重増加量の大小により血液の希釈程度が変動する。そして、2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」における血液透析患者のためのガイドラインは、これを考慮して作成されている。そのため、血液透析患者のガイドラインは、透析導入前の腎不全患者や CAPD 患者には適用できない 。
2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」では、透析導入前の腎不全患者や CAPD 患者に対する ESA 療法の目標ヘモグロビン濃度として、11 g/dL(ヘマトクリット値にして 33%)以上を推奨しており、ヘモグロビン濃度が 13 g/dL (ヘマトクリット値にして 39%)を超えた場合には ESAの減量あるいは休薬を考慮することになっている。ただし、重篤な心・血管系疾患を合併している患者では、ヘモグロビン濃度が 12 g/dL(ヘマトクリット値にして 36%)を超えた時点で減量あるいは休薬を考慮するべきであるとしている。
 
 
 
文献

1.    2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」 透析会誌 41(10): 661-716, 2008. 
 

1.10 透析スケジュール

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1.10 透析スケジュール
1.間欠治療における透析頻度
もっとも理想的な血液透析は、24時間連日連続透析であろう。しかしこのような血液透析は、社会的、経済的にも、また技術的にも実現不能である。そこで、連続的という要素を諦め、間欠的としたのが現在の血液透析である。間欠的な血液透析を行おうとすれば、当然、血液透析を行っていない時間が存在し、その時間(血液透析が終了してから次の血液透析が始まるまでの時間)には尿毒症物質が体内に蓄積していく。そして、これが生体に悪影響を及ぼし、何らかの合併症を引き起こす 原因となるであろうことは容易に想像できる。例えば、体内への過剰な水の貯留は、心血管系に対して過大な負荷を与えることになるだろう。また、血清リン濃度の上昇は、異所性石灰化の原因となるだろう。そして、血液透析を行っていない連続時間が短かければ短いほど、この機序による合併症の発生は少なくなると考えられる。
a.間欠治療の種類
理想的には連続的であるべき透析治療を週あたり何回かに分散しておこなう場合には、いくつかの分散の仕方が考えられる。現在は、週あたり3回に分散して、週日は1日おきに、週末は日曜日を挟む2日 空きで血液透析を施行する治療スケジュール(仮に、これを通常透析と命名しておく)、あるいは週あたり 3.5 回に分散して、週末にも日曜日を挟む1日空きで血液透析を施行する治療スケジュール(隔日透析)、週日は連日透析を行い、日曜日のみ治療を休む治療スケジュール(頻回透析)がある。当然のことながら、血液透析を行っていない連続時間は、週 6 回連日で血液透析を行う頻回透析で最も短く、隔日透析がこれに次ぐ。とくに週末においては、頻回透析でも隔日透析でも、血液透析を行っていない連続時間が約 2日間であるため、体内に貯留する水分量の最大値は等しいという点では、両治療スケジュールは同等である。これに対し、週あたり 3回に分散して血液透析を行う透析治療スケジュールでは、週末における血液透析を行っていない連続時間は約 3日間となり、とくに週末における体内への過剰な水の貯留による心血管系への負荷や血清 リン濃度の上昇にともなう異所性石灰化の促進圧力は強いと想像される。
b.透析頻度と合併症
頻回透析では、透析間における体内への過剰な水の貯留による心血管系への負荷が少ないことから、心血管系の合併症が少ないと予想される。
最近、北米で行われた前向き研究において、頻回透析により左室重量が減少し身体活動が向上し、高リン血症の管理や高血圧の管理が改善する事が示された。すなわち、施設透析をしている 245 名を無作為に 2 群に分け、一方の群に通常スケジュールの血液透析(週平均 3回、1回 3.5 時間)を施行し、他方の群には頻回短時間透析(週 6 回、1回 2.5 時間)を施行した所、通常スケジュール群では12ヶ月間の死亡数は 9 名であり、これに対して頻回透析群では死亡数が 5 名であった。また、頻回透析群では通常スケジユール群に比べて、左室容積が増加するリスクは 0.61倍であり、収縮期血圧は 10mmHg 低く、降圧剤の投与量も少なかった。さらに、頻回透析群ではエリスロポエチン製剤の使用量が減少した[1]。また、メタアナリシスにおいても、頻回透析により、高血圧の是正、心室肥大の比率の減少、エリスロポエチンの使用量の減少、リン吸着剤の必要量の減少が認められた[2]。

さらに、わが国では、臼井らが、週 3 回透析を週末に2日空きの日をつくらない隔日透析に変更したところ、EFは維持あるいは増大し、BNPは低下したと報告している[3]。

なお、頻回透析では透析間の時間が短いゆえに、週3回透析ほどには透析間における尿毒症物質の蓄積を気にする必要がない。したがって、頻回透析では飲水や食事摂取の制限を緩和でき、これ は栄養状態を改善すると考えられる。
c.透析頻度と透析時間
原則的に、透析中には、その血液透析の直前の透析間に体内に蓄積した水および尿毒症物質を除去しなければならない。このとき、頻回透析では、透析間の時間が短いので1回透析で除去しなければならない水や尿毒症物質の量は少なく、一方、週 3 回の通常スケジュールの血液透析では、透析間の時間がより長いので1回透析で除去しなければならない水や尿毒症物質の量も多くなる。したがって、頻回透析では、透析時間を短縮しても水や尿毒症物質は緩徐に除去されるのに対し、通常スケジュールの血液透析では頻回透析よりも透析時間が長いにもかかわらず、水や尿毒症物質 の除去は急速になる。そして、この急激な水や尿毒症物質の除去が何らかの合併症の原因となる可能性もある。また、通常スケジュールの血液透析では、しばしば直前の透析間に体内に蓄積した水および尿毒症物質を十分に除去することができず、結果として透析不足の状態となる可能性もある。週 3 回透析 における透析時間はどの程度が適当であるのか明らかではないが、少なくても現在一般的に行われている4時間の透析時間が短すぎることは確かなようである。
d.透析時間と合併症
長時間透析では、緩徐に水や尿毒症物質を除去するため、透析中に血圧低下が生じることが少なく、十分な量の尿毒症物質を緩徐に除去することが可能と考えられる。したがって、長時間透析では、尿毒症物質の不十分な除去に伴う合併症が予防できると想像される。

長時間透析の有効性に関して、1992年に Charra らは、週 3 回、1回 8 時間の長時間透析を実施したところ、高血圧が是正され、エリスロポエチン製剤の使用量が減少し、死亡率は低下したと報告した[4]。また、柴田らは、週 3 回、1回 6〜8 時間の深夜透析においては、高血圧の是正と貧血の改善が認められたと報告し[5]、前田らは週 3 回、1回 6 時間の血液透析で貧血が改善したと報告している[6]。
 
 
2.透析頻度と透析時間の適正な組み合わせ
a.頻回透析と長時間透析の現状
現時点では、社会経済的な要因もあって、頻回透析は短時間透析と組み合わせて施行され、長時間透析は週3回の透析スケジュールと組み合わせて施行されている。すなわち、週3回透析あるいは隔日透析なら 透析時間は 6時間以上(長時間透析)、連日透析なら 2〜2.5 時間(短時間頻回透析)とすることが多いようである。
b.ヘモダイアリシスプロダクト(HDP)
本来、連続透析に近い、頻回短時間透析が理想であると考えるが、社会的な事情や患者個人の事情で、これが不可能なことが多い。そうであれば、これに代わる週3回の長時間透析が望まれる。このような背景の下、Scribner らは、透析頻度と透析時間との組み合わせ方はひとつの透析条件であるとの立場に立って、血液透析の適正さを表わす指標としてヘモダイアリシスプロダクト(HDP)を考案した[7]。すなわち、彼らはこれまでに報告された様々な透析時間と透析頻度 との組み合わせの下での患者の臨床症状を整理し、「1回の血液透析の治療時間(hr) × (1週間あたりの透析回数)」がおおよそ 70 以上の患者では、臨床症状が良好であることを発見し、これを HDP と命名した。

HDP に基づくと、2時間週6回の短時間頻回透析(HDP=72)、8時間週3回の長時間透析(HDP=72)および6時間の隔日透析(HDP=73.5)はそれぞれ等価ということになる。なお、この指標を日本における平均的な血液透析(週 3 回、1回 4 時間)に当てはめると、日本の透析治療のHDP は 36 に過ぎない。
しかし、もし頻回透析の主な利点が安定した治療と非透析時間の短縮にあり、長時間透析の利点が安定した治療と大透析量にあるとすれば、果たして両者を等価変換することは可能であるのかどうか、いくらかの疑問 が残る。すなわち、頻回透析と長時間透析の利点は、それぞれ異なるものではないだろうか。
 
 
 
文献
1.    Chertow GM, et al: In-center hemodialysis six times per week versus three times per week. N. Engl. J. Med. 363: 2287-2300, 2010.
2.    Puñal J, et al: Clinical effectiveness and quality of life of conventional haemodialysis versus short daily haemodialysis: a systematic review. Nephrol Dial Transpl 23: 2634-2646, 2008.
3.    臼井壮一、他:隔日透析. Clinical Engineering 22: 789-793, 2011.
4.    Charra B, et al: Survival as an index of adequacy of dialysis. Kidney Int 41: 1286–1291, 1992.
5.    柴田 猛、他:深夜透析. Clinical Engineering 22: 783-788, 2011.
6.    前田兼徳:長時間透析. Clinical Engineering 22: 773-782, 2011.

1.9 透析量プログラム

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1.9 透析量プログラム
1. 透析量プログラム[1]
各透析の開始前にコンソール(監視装置)に目標とするKt/V値を入力すると、このKt/V 値が得られる透析条件が算出されるプログラムである。このプログラムは、尿素動態モデルのひとつである局所血流モデルを基に作成されている。現在、計画透析プログラムは、日機装株式会社製のコンソール(透析用監視装置 DCS-27、DCS-28、DCS-73)に搭載されている。
透析量プログラムが搭載されているコンソールでは、まず、月に1回、定期採血の日に、実測の透析前後BUN、その日の透析の透析時間、血流量、透析液流量、ダイアライザの特性である KoA、除水量をモニター画面に入力する。この操作により、体液量に諸パラメータの有する誤差の補正値が加味された「体液量+補正値」が算出される。この値は、1ヵ月後に再び新たな「体液量+補正値」が算出されるまで、コンソールに記憶されている。
それ以後の1ヶ月間は、透析ごとにコンソールのモニター画面に対して目標とするKt/V値、「体液量+補正値」と共に予定透析時間、血流量、透析液流量、ダイアライザの特性である KoA、除水量を入力する。これにより、モニター画面には透析後にこの Kt/V 値が得られる透析液流量が表示される。
 
 
2. 透析量プログラムの精度
延べ 60名の患者において目標 Kt/V 値と達成された Kt/V 値(実測の Kt/V 値)とを比較したところ、図に示すように、透析後には目標とした Kt/V 値(X)どおりの実測 Kt/V 値(Y)が得られていた(Y=1.008+0.003;r=0.973;n=60)。そして、目標 Kt/V 値(X)に対する実測 Kt/V 値(Y)の平均誤差(目標 Kt/V 値と実測 Kt/V 値との差の平均値)は 0.04 にすぎなかった。
なお、Kt/V 値は血流量、透析液流量、透析時間、ダイアライザの特性だけでなく、除水量の影響も受ける。そして、除水量は透析ごとに異なる。したがって、透析開始前に算出した目標とする Kt/V 値を実現する透析液流量は、たとえ目標とする Kt/V 値を変更しなかったとしても、その透析でしか有効ではないことに注意する必要がある。
 
 
3. 透析液の節約のための透析量プログラムの利用
透析量プログラムを使用して透析液流量を制御したところ、Kt/V 値は変化しなかったにもかかわらず、透析液の使用量が減少したと報告されている[2]。
透析時間、ダイアライザの特性(KoA)、除水量が一定であるなら、Kt/V は血流量と透析液流量で決まる。そこで、Kt/V が変化しないという条件の下で血流量を増やし、透析液流量を減らせば、Kt/V を維持したままで透析液の使用量を減らすことができる。この場合、リンの除去量は変化せず、β2-ミクログロブリン の除去量はわずかに増加すると報告されている[1]。
 
 
 
文献
1.  新里高弘、他:目標Kt/Vが得られる透析液流量の算出法. 日本透析医学会雑誌42: 921-929, 2009.
2.  村上辰和嘉:透析量プログラム臨床使用の有用性. 日本臨床工学技士会会誌 36:159-160, 2009.

1.8 採血のタイミング

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1.8 採血のタイミング
血液中尿素窒素濃度(BUN)は、透析終了(尿毒症物質の除去停止)後、約 30 分間上昇し続ける。この透析終了後の BUN の上昇を BUN のリバウンドと呼ぶ。この項では、Kt/V などの透析量を算出する際、このリバウンド過程のどの時点で測定した BUN を用いるべきか検討する。
 
1. BUNのリバウンドの機序
ダイアライザで浄化された血液の一部が、静脈針から動脈針に流れ、再び動脈針を経てダイアライザに流入している患者、すなわち体外循環している血液の一部がダイアライザとシャント血管の間で再循環している患者では、約 30 分間続く BUN のリバウンドの最初の1分間の上昇は、主にシャント血管とダイアライザ間の血液の再循環と血液の心肺再循環に関連して生じている。そして、その後の BUN の上昇は、尿素が除去されにくいために尿素窒素濃度が他よりも高い生体内区域の尿素濃度と、尿素が除去されやすいためこれが他よりも低い区域の尿素濃度が均一になる過程である。なお、血管内(血液)は尿素の除去されやすい区域に属する。
a. シャント血管とダイアライザ間の再循環
シャント血管とダイアライザ間に血液の再循環があると、通常の採血ポイント(血液ポンプの上流)から採血した血液サンプルは吻合部からシャント血管に流入した血液にダイアライザで浄化された血液の一部が混入したものとなる。したがって、このような血液サンプル中の尿素窒素濃度は吻合部からシャント血管に流入した血液中の尿素窒素濃度よりも低くなる。今、透析液の流れを止めるなどしてダイアライザにおける尿素の除去を停止すると血液ポンプの上流の採血ポイントを通過する血液中の尿素窒素濃度は徐々に吻合部からシャント血管に流入した血液中の尿素窒素濃度に近づいていく。すなわち、BUN のリバウンドが生じる。
b. 心肺再循環
心肺とダイアライザ間には必然的に 5% 程度の血液の再循環が生じている。すなわち、すでにダイアライザで浄化された血液のうちの 5% 程度が心肺を循環して再び体外循環する。したがって、透析終了と同時に通常の採血ポイント(血液ポンプの上流)から採血した血液サンプルには、すでにダイアライザで浄化された血液が 5% 程度混入している。これは、透析終了と同時に通常の採血ポイントから採血した血液サンプル中の BUN は 5% 程度低く評価されていることを示している。今、透析液の流れを止めるなどしてダイアライザにおける尿素の除去を停止すると、シャント血流へのダイアライザで浄化された血液の混入がなくなり、血液ポンプの上流の採血ポイントを流れる血液中の尿素窒素濃度はしだいに 5% 程度上昇していく。すなわち、心肺再循環の停止に伴う BUN のリバウンドが生じる。
なお、この機序による BUN のリバウンドは、シャント血管とダイアライザ間における血液の再循環の有無にかかわらず、すべての患者で生じる。
c. 生体内の不均一な尿素濃度が均一になる過程
生体内には尿素が除去されにくいため透析中は尿素窒素濃度が他よりも高くなる区域と、尿素が除去されやすいためこれが他よりも低くなる区域がある。尿素が除去されにくい生体内の区域とは水分含有量が多いにもかかわらず血流の悪い臓器、例えば筋肉や皮膚であり、尿素が除去されやすい区域とは水分含有量が少なく血流は多い臓器、例えば肝臓や腸などの消化器系臓器であると考えられている。(局所血流モデル[1])
そして、透析終了後(ダイアライザでの尿素除去の停止後)に、尿素が除去されにくいため尿素窒素濃度が他よりも高い生体内区域の尿素濃度と、尿素が除去されやすいためこれが他よりも低い区域の尿素濃度とが均一になっていく過程が、シャント血管とダイアライザ間の再循環の停止にともなうリバウンドおよび心肺再循環の停止にともなうリバウンドに続く三番目のリバウンドの本体である。
 
 
2. 採血のタイミング
シャント血管とダイアライザ間で血液が再循環している患者では、透析後、BUN のリバウンドが終了してから採血を行おうとすると、まずダイアライザにおける尿素の除去を停止しなければならない。しかし、そのために血液ポンプを止めると、まもなくダイアライザ内やチャンバー内で血液の凝固が始まる。これを避けてダイアライザにおける尿素の除去を停止させるためには血流量をゼロにするのではなく 50 ml/分程度に低下させて低速で血液を流し続けるようにする。血流量を 50 ml/分まで低下させると尿素の除去は実質的にゼロになる。この状態で1分間待って採血を行えば、シャント血管とダイアライザ間の血液の再循環の停止および心肺再循環の停止にともなう BUN リバウンドが終了した後の血液サンプルが得られる。
しかし、日本の透析施設の現状では、血流量を 50 ml/分程度に低下させた後、1分間待って採血を行うことは円滑な業務の推進にとって障害になるかもしれない。これを解決するため、川崎医科大学附属病院の小野らは、血液ポンプの回転を 50 ml/分程度に低下させた後、30秒が経過したところで採血を行い、この 30秒の待ち時間には手袋を着用するなど、他の業務を行っている。
シャント血管とダイアライザ間の再循環の停止にともなう BUN のリバウンドが終了するのには約30秒を要するのに対し、心肺再循環の停止にともなう BUN のリバウンドが終了するのには約1分を要する。したがって、小野らのタイミングで採血を行うと、シャント血管とダイアライザ間の再循環の影響は消失しているが、心肺再循環の停止にともなうリバウンドについてはその最中に血液サンプルを採取していることになる。しかし、シャント血管とダイアライザ間の再循環は患者ごとにその程度が大きく異なり、また患者によってはその程度が極めて大きいのに対して、心肺再循環は患者ごとにその程度のバラツキが少なく、またその程度も 5% 程度と小さい。これは、血液ポンプの回転を 50 ml/分程度に低下させた後、30秒が経過したところで採血を行っても実質的に問題はないことを示唆している。
一方、日本透析医学会の「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」では、シャント血管とダイアライザ間の再循環率を測定する際、血液透析開始 30分後に血流量を120 ml/分程度に低下させた後、10秒間待って採血を行うことを推奨している。これに従うなら、透析終了時に採血を行う際にも、血流量を120 ml/分程度に低下させ、その10秒後に採血をすればよいことになる。これは、かなり現実的な方法とであると思われる。
なお、シャント血管とダイアライザ間に血液の再循環がない患者では、このような操作を行わず、血液ポンプが通常の速度で駆動している状態で採血を行っても差し支えない。血液の再循環が否定できない患者でのみ、透析終了時の採血の際に上記の操作を行えばよい。
 
 
 
文献
1. Schuneditz D, et al: A regional blood circulation alternative to in-series two compartment urea kinetic modeling. Trans Am Soc Artif Intern Organs 39: M573, 1993.

1.7 男女別の至適透析量

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1.7 男女別の至適透析量
最近、高い透析量は女性では死亡のリスクを減少させるが、男性では必ずしも死亡のリスクを低下させないと報告された。CMS(the Center for Medicare & Medicaid Services)データの解析によると、尿素除去率が増大するにしたがって、男性および女性のいずれにおいても死亡のリスクはほぼ同じ率で低下していく。ところが、図に示すように、尿素除去率が 65% を越えると、男性の死亡のリスクの低下程度は女性のそれよりも緩徐になっていく。例えば、女性では、尿素除去率が 70〜75% の場合には 65〜70% の場合よりも死亡のリスクは19%低く、尿素除去率が 75% 以上の場合には 65〜70% の場合よりも死亡のリスクは31% も低い。これに対し、男性では、尿素除去率が 70〜75% の場合には 65〜70% の場合よりも死亡のリスクは 10% 低いだけであり、尿素除去率が 75% 以上の場合にも 65〜70% の場合より 13% 低いにすぎない[1]。
DOPPS(the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)データの解析でも同様の結果が得られている。
 
 

文献
1. Port FK, et al: High dialysis dose is associated with lower mortality among women but not among men. Am J Kidney Dis 43: 1014-1023, 2004.

1.6 透析時間

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1.6 透析時間
1.  透析時間と透析量
至適透析の指標としての透析時間の位置づけには様々な議論がある。患者の体液量 (V) が一定であるなら、Kt/V は、透析中の尿素クリアランス(K)と透析時間(t)の積 (K×t) のみによって決定され、尿素クリアランスと透析時間のそれぞれがどのような値であるのかは問題とはならない。実際、透析時間を短縮しても (すなわち短時間透析を実施しても)、Kt/V がある一定の値を維持していれば生命予後は悪化しないことを示す報告もあり、これは透析時間が独立した至適透析の指標ではないことを示していると言えるだろう。透析時間を治療への拘束時間ととらえるなら、透析時間を短くすることは患者の拘束を軽減することであり、これは好ましいことである。
しかし、短い透析時間では、同じ除水量でも単位時間あたりの除水率は大きくなり、心循環器系への影響が大きくなることは容易に想像できる。また、単位時間あたりの溶質除去率も高くなるので、不均衡症候群などの透析合併症も発生しやすい。逆に、長い透析時間では、拘束時間が長くなる代わりに、これらの問題は起こりにくいと予想される。実際に、長時間透析を実施することによって、患者の血圧管理が容易となり、ひいてはその生命予後が極めて良好となったことを報告している研究者もいる[1,2]。これは、透析時間が独立した予後指標である可能性を示唆している。
 
 
2.  透析時間と死亡のリスク
透析時間は Kt/V を構成する一因子であるため、透析時間と Kt/V との間には強い相関がある。従って、たとえ透析時間の長い患者の生命予後が、それの短い患者より優れているとしても、それが長い透析時間そのものによって生じたのか、それとも長い透析時間に必然的に伴う大きな Kt/V によって生じたのかを弁別することは実際には困難である。
1997年度の日本透析医学会統計調査委員会の報告では、透析時間と Kt/V のそれぞれの影響を多変量解析を用いて数学的に弁別している。これによると、Kt/V の与える影響を補正した後でさえも、透析時間と生命予後との間には明確な関係が認められた[3]。これは、透析時間が、Kt/V とは独立した至適透析の指標であることを強く示唆している。
すなわち、たとえ Kt/V で補正したとしても、透析時間が5時間に達するまでは透析時間が長くなるにしたがって死亡のリスクは低下していく。したがって、理想的には透析時間は5時間以上が望ましいと考えられる。また、4時間未満では死亡率が著しく増加するので、少なくとも4時間の透析時間は確保すべきである。
 
 
 
文献
1.    Laurent G, Calemard E, Charra B: Long dialysis: a review of fifteen years experience in one centre 1968-1983. Proc EDTA 20: 122-129, 1983.
2.    Charra B, Calemard E, Ruffet M, et al.: Survival as an index of adequacy of dialysis. Kidney Int 41: 1286-1291, 1992.
3.    日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (1997年12月31日現在).  pp.380-382, 日本透析医学会, 1998.

1.5 TACBUN(Time-Averaged Concentration of BUN)

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1.5 TACBUN(Time-Averaged Concentration of BUN)
1.TACBUNの定義
血清尿素濃度は、透析時には尿素の除去のために低下し、非透析時には尿素の産生のために上昇する。すなわち、血清尿素濃度は一週間をとおして下降と上昇を繰り返す。この下降と上昇を繰り返す血清尿素濃度を一週間をとおして時間的に平均したものが TACBUN である。
TACBUN を正確に求めるためには、週 3 回のそれぞれの透析前後の血清尿素濃度をすべて測定し、これら6つの血清尿素濃度を一週間をとおして時間平均する。
 
 
2.TACBUNの算出法
a.透析後の血清尿素濃度と次の透析前の血清尿素濃度から TACBUN を求める方法
血清尿素濃度を一週間をとおして時間平均するために、週 3 回のそれぞれの透析の前後に血清尿素濃度を測定するのは、臨床的に現実的ではない。そこで、しばしば、週の最初の透析後血清尿素濃度と週の2度目の透析前血清尿素濃度から式(1)を用いて近似値が算出される。
TACBUN(mg/dl)=
(週始め透析後BUN+週2度目透析前BUN)/2  
 (1)

b.平均尿素産生速度と平均尿素クリアランスから TACBUN を求める方法
平均尿素産生速度と平均尿素クリアランスの比からも TACBUN を算出することができる。これは以下の事実に基づく。
体内での尿素産生速度(G)も体内からの尿素除去速度(E)も一定である平衡状態では、体内からの尿素除去速度は体内での尿素産生速度に等しい。もしそうでなければ、体内には尿素が無限に蓄積するようになるか、あるいは尿素がまったく存在しなくなるだろう。
 
  G = E (2)

一方、尿素除去速度は体内の尿素濃度(C)と尿素クリアランス(K)との積に等しい。
  E = K×C  (3)

式(3)を式(2)に代入すると明らかなように、平衡状態では尿素除去速度は尿素濃度と尿素クリアランスの積に等しい。
  G = K×C(4)

式(4)を書き換えると、平衡状態では、尿素濃度は尿素産生速度を尿素クリアランスで割った値であることを示す以下の式が得られる。
   C =
      G
(5)
      K      

安定した透析患者では、一週間における尿素産生量は一週間における尿素除去量に等しいとして式(5)を透析患者に当てはめると、式(6)が得られる。
TACBUN =
  一週間の平均尿素産生速度  
(6)
一週間の平均尿素クリアランス 

そして、式(6)に示す概念に基づいて、TACBUN(mg/dl)を求める式が作成されている[1]。
TACBUN (G/V)×(T/n)  (7)
      (Kt /V)                         
ただし、
Kt/V=
- ln (
     Ce    
)
     Cs
G/V =
   Cns – Ce  
Tint

ここで、V(dl)は体液量、T は1週間の総時間(168hr)、n は1週間の透析回数(3回)、Tint(hr)は透析終了時から次の透析の開始時までの時間、Cs(mg/dl)は透析開始時の尿素窒素濃度、Ce(mg/dl)は透析終了時の尿素窒素濃度、Cns(mg/dl)は次回の透析の開始時の尿素窒素濃度を示す。
さらに、式(6)に示す概念に基づいて、除水にともなって体液量が減少していく 1-コンパートメントモデル を解析して得られるKt/VとnPCRからTACBUN を求めることもできる。Kt/V と nPCR から TACBUN を求める式は、具体的には以下の方法により導かれる。
G/v(mg/week/mL)を1週間あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素窒素産生量、K/v(mL/week/mL) を1週間あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素クリアランスとすると、式(5)は以下のように書き換えられる。
TACBUN =     G/v   (8)
     K/v

ここで、式(8)における G/v (mg/week/mL) を1分あたり、単位体液量(L)あたりの尿素窒素産生量である g/V(mg/min/L) に、K/v(mL/week/mL) を1分あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素クリアランスである k/v(mL/min/mL)に変換する。
G/v =
g/V×60×24×7/1000(9a)
K/v=
k/v×60×4×3 (9b)

式(9a)と式(9b)を式(8)に代入すると、以下の式が得られる。
TACBUN =  G/v  = g/v×60×24×7/1000 = 10.080 g/v(10)
 K/v    k/v×60×4×3 720 k/v

一方、Borah らによると、nPCR と g/v との間には以下の関係がある[2]。
nPCR =(9.35 g/v + 0.29)×0.55 (11a)

式(11a)を書き換えると、
g/v =0.1944 nPCR – 0.0310 (11b)

さらに、Kt/V は k/v と透析時間の積である。
Kt/V=k/v×TD(12a)

したがって、
k/v =  Kt/V (12b)
   TD

式(11b)と式(12b)を(10)に代入すると、nPCR と Kt/V から TACBUN を求める式が得られる。
TACBUN (mg/ml) =
  0.00272 nPCR – 0.00043 
TD (13a)
             Kt/V

あるいは
TACBUN (mg/dl)=
   0.2722 nPCR – 0.0434  
TD
(13b)
 Kt/V
ただし、上記の式のKt/V(単位なし)とnPCR(g/kg/day)は透析医学会の計算シートにより算出されるパラメータであり、TD は分単位の透析時間である。
 
3. 至適TACBUN
現時点では、多数の患者のデータを多変量解析することにより TACBUN の至適な値を決定した報告はない。式(13)が示すように、TACBUN は蛋白摂取量の指標である nPCR と透析量の指標である Kt/V のふたつによって決定される。そこで、たとえ TACBUN が同じ値であっても、高い nPCR に高い Kt/V の組み合わせである場合と低い nPCR に低い Kt/V の組み合わせである場合とがあり得る(図)。したがって、たとえ同じ値の TACBUN であっても、nPCR と Kt/V の組み合わせしだいで、死亡のリスクに与えるインパクトは異なるかもしれない。もしそうであれば、死亡のリスクを最小にする独立した指標としての TACBUN 値というものは存在しないことになる。
 
 
 
 
 
 
 
文献
1.      峰島三千男: 3.5 血液浄化療法の治療指標. (編集:透析療法合同専門委員会編集委員会)血液浄化療法ハンドブック(改定第5版). 2008, 8-45, 協同医書出版社, 東京.

2.      Borah MF, et al: Nitrogen balance during intermittent dialysis therapy of uremia. Kidney Int 1978; 14; 491-500

1.4  低栄養の患者における適正透析量

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1.4 低栄養の患者における適正透析量
1.  多変量解析法により決定した適正透析量
適正 Kt/V 値を決定するため使用される、ロジステイックモデルあるいは比例ハザードモデルを解析する多変量解析法では、図1の(a)に示すように、死亡率を死亡のリスク値とみなしたうえで、Kt/V をいくつかに等分し、それぞれの Kt/V 帯に属する患者の死亡のリスク値を表示している。その際、それぞれの Kt/V 帯に属する患者の死亡のリスク値は実際の値ではなく、所属する患者数がもっとも多い Kt/V 帯における死亡のリスク値を1.0(対照)とした場合の相対的な値である。
多変量解析法で Kt/V と死亡のリスクとの関係を求める場合、「Kt/V 以外のパラメータの値は、すべての解析対象患者において対照とした Kt/V帯に属する患者の平均値に等しい」という仮定を設ける。したがって、「適正Kt/V値は1.2以上である」というガイドラインは、Kt/V 以外の何らかのパラメータの値が対照 Kt/V 群の平均値よりも極端に高い患者や極端に低い患者には適用できない可能性がある。そのようなパラメータのひとつに透析前血清リン濃度(以後、単にリン濃度とする)がある。
 
 
2.  透析前リン濃度と透析量
リン濃度は食事の量と内容によって変化するが、同時に透析量を変えた場合にも変化する。したがって、適正透析を考えるときには Kt/V 値が死亡のリスク値に与える影響だけでなく、リン濃度が死亡のリスク値に与える影響も考慮しなければならないと思われる。つまり、Kt/Vに関する死亡のリスク値とリン濃度に関する死亡のリスク値とを合わせた総合の死亡のリスク値が最小になる時の Kt/V 値を適正 Kt/V値としなければならないことになる。
しかし、Kt/V に関する死亡のリスク値とリン濃度に関する死亡のリスク値とを合わせた総合の死亡のリスク値を最小にしようとすると、リン濃度がリン濃度に関する死亡のリスク値が最小となるような値に近い値となるようにKt/Vを増やし、あるいは Kt/V を減らすことになってしまう。これは、以下に示すように、死亡のリスクに対する Kt/V のインパクトよりもリン濃度のインパクトの方が大きいことによる。
図1の(a)に示すように、ほとんどの患者が入る Kt/V の範囲(1.0〜1.8)における死亡のリスクの最小値は 0.861 であり、最大値は 1.000であった。つまり、この範囲での最大変動幅(最大値—最小値)は、最大値と最小値の中間値である 0.931 の 15% に過ぎなかった。これに対して、図1の(b)に示すように、ほとんどの患者が入るリン濃度の範囲(4.0 mg/dL〜9.0 mg/dL)における死亡のリスクの最小値は 0.830 であり、最大値は 1.283 であった。つまり、この範囲での最大変動幅は、最大値と最小値の中間値である 1.057 の 43.9% であった[1]。これらの結果は、Kt/V 値が黒い棒グラフで示す通常の範囲内でかなり大きく変動しても Kt/V に関する死亡のリスク値は大きくは変動しないのに対し、リン濃度が通常の範囲内で変動すると、死亡のリスク値は Kt/V の場合よりも遥かに大きく変化すること、すなわち死亡のリスクに関して Kt/Vのインパクトよりもリン濃度のインパクトの方が大きいことを示している。
さて、リン濃度を下げる手段としては、透析によるリンの除去の増大よりも、むしろ、食事のコントロールやリン吸着薬の服用の方が一般的である。すなわち、リン濃度の高い患者では、まず食事のコントロールあるいはリン吸着薬の服用により、リン濃度をできるだけ適正値に近づけ、しかる後に Kt/V に関する死亡のリスク値とリン濃度に関する死亡のリスク値とを合わせた総合の死亡のリスク値がさらに低下するように Kt/Vを調整するのが現実的であると思われる。
これに対し、食事のコントロールでは是正しにくい低リン血症の患者については、透析によるリン除去量のコントロールが有用な手段であろう。リン吸着薬を服用していないにもかかわらず、食欲不振などのためリン濃度が 4.0 mg/dL 以下となっている患者では、たとえ Kt/V 値が低くても、さらに Kt/V 値を低下させた方がよいこともあるだろう。
 
 
 
文献
1.    わが国の慢性透析療法の現況(1997年12月31日現在). pp.379, pp.399日本透析医学会, 1998.