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1.3 至適透析量

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1.3  至適透析量
1.至適透析量の定義
ここでは、至適透析を「死亡率を可能な限り低くする透析」と考え、Kt/V あるいは尿素除去率(URR)などの透析量の至適レベルとは「死亡率(死亡のリスク)を可能な限り低くする透析量のレベル」と定義する。
Kt/V の上記の至適レベルは、Kt/V 以外のパラメータの値、とくに透析前血清リン濃度、nPCR、体重増加率などが、基準とした患者群(対照としたKt/Vの患者群)におけるそれぞれのパラメータの平均値と大きくは異なっていない場合にのみ、有効である。
なお、以下に述べる透析量に関する諸指標のレベルと死亡のリスクとの関係は、週3回の血液透析患者についてのものであり、他の治療条件(たとえば週2回や週4回以上の透析など)の患者には適応できないことに気をつけなければならない。
 
 
2.至適Kt/V

a.  Single-pool Kt/V
日本透析医学会統計調査委員会は、多変量解析法を用いて single-pool Kt/V (以後、Kt/Vsp と略す)と死亡のリスクとの関係を求めた。同委員会の 2001年度の調査結果の解析によると、図1に示すように、Kt/Vsp  が 1.2 に達するまでは Kt/Vsp の増大にともなって死亡のリスクは急速に低下していき、さらに Kt/Vsp が 1.8 に達するまで Kt/Vsp の増大にともなって死亡のリスクはなお緩徐に低下していく[1]。したがって、この解析結果によると Kt/Vsp の至適水準は 1.2 以上であって、Kt/Vsp がこれよりも大きければ大きいほどよいことになる。同様に K/DOQI Guidelines 2000 でも、至適 Kt/V を 1.2 以上としている。これに対し、アメリカ多施設臨床試験である HEMO Study グループは、アメリカの平均 Kt/Vsp(1.32±0.09)よりもさらに大きな Kt/Vsp の透析を行っても死亡のリスクは低下しないと報告している[2]。
 
b.  Kt/Ve
日本透析医学会統計調査委員会は、ロジスティック回帰分析法を用いてKt/Ve(以後、Kt/Veと略す)と死亡のリスクとの関係を求めた。その結果によると[3]、Kt/Ve が 1.2 に達するまでは、Kt/Ve の増加に伴って死亡のリスクは低下する。従って、Kt/Ve の至適レベルは 1.2 以上ということになる。さて、確かに Kt/Ve の増加に伴って死亡のリスクは低下するものの、Kt/Ve が 0.9 以上になると、Kt/Ve の増加に伴うリスクの低下の程度は必ずしも顕著ではない。一方、Kt/Ve が 0.9 を下回って低くなると、死亡のリスクは著しく増大する。従って、やむを得ない理由によって 1.2 以上の Kt/Ve の確保が困難であったとしても、少なくとも 0.9 以上の Kt/Ve を確保することは、最低限必要であろう。
c.  Kt
Kt/V は尿素クリアランスと透析時間の積を体のサイズの指標のひとつである体液量で補正した指標、すなわち単位体液量あたりの Kt である。これに対し、Kt は体のサイズの違いを考慮しない透析量の指標である[4]。ここで生じる疑問は、Kt/V と Kt とでは、いずれがより優れた指標であるかということである。

もし透析量の指標としての Kt の妥当性を論ずるとしたら、以下のような説明もあるかもしれない。---- 透析による尿素の除去量はダイアライザの尿素クリアランス(K)が大きいほど、また透析時間(t)が長いほど多くなる。そこで、ダイアライザの尿素クリアランスと透析時間の積である Kt は、尿素の除去という点からみた透析量を表す。
さて、尿毒症物質は体液中ではなく、臓器内で産生される。したがって、Kt は体液量ではなく臓器重量で補正されるべきであろう。しかし、実際には体格と臓器重量との関係を明らかにすることは困難である。したがって、Kt を臓器重量で補正することはできない。ところで、臓器重量は、体格が大きな患者と小さな患者で体液量ほどにはバラつかない[5]。したがって、Kt を体液量で補正するくらいなら、どの体格の指標でも補正しない方がよいかもしれない。---- ところが、実際には体格の異なる患者における体液量と臓器重量の関係、あるいは体液量と尿毒症物質産生量の関係は、なお十分に明らかではない。したがって、上記の説明も十分な説得力をもつものではない。

そこで、Kt の妥当性を示すには、死亡のリスクと Kt/V との関係おける Kt/V のインパクトの強さと、死亡のリスクと Kt との関係おける Kt のインパクトの強さを比較するのが適切であることになる。しかし、そのために現時点でできることは、死亡のリスクと Kt/V との関係および死亡のリスクと Kt との関係を眺めて、直感的にそれぞれの指標のインパクトを評価するしかないだろう。当然のことながら、このような方法の妥当性 は認められてはいない。すなわち、Kt/V と Kt のいずれの指標が優れているのかを評価することは現時点では困難である。

もし死亡のリスクと Kt/V との関係も、死亡のリスクと Kt との関係も、いずれも死亡のリスクと透析量との関係を表しているという立場に立つと、Kt/V よりも Kt の方が実用的である。すなわち、Kt に基づいて適正透析を考えるのであれば、与えられた透析時間の下では、すべての患者について同一の透析条件を適用すればよいことになる。Lowrie らによると、適正 Kt は男性では 45〜 50L、女性では 40〜45Lである[4]。
d.  尿素除去率(URR)
K/DOQI Guidelines 2000 では、至適尿素除去率を 65% 以上としている。これに対し、アメリカ多施設臨床試験である HEMO Study グループは、アメリカの平均的な尿素除去率(66.3±2.5%)よりもさらに大きな透析量の透析を行っても死亡のリスクは低下しないと報告している[2]。

透析量があるレベルを超すと死亡のリスクのそれ以上の低下はないという報告よりもさらに進んで、透析量があるレベルを超えると死亡のリスクが逆に増大するとの報告もある。例えば、McClellan らは尿素除去率が 70% を超えると死亡のリスクは逆に上昇したと報告している[4]。また、Chertow らは、尿素除去率が 64.1 〜 67.4% の患者グループに比べて、尿素除去率が 67.4 〜 71.0% の患者グループでもこれが 71.0% 以上の患者グループでも死亡のリスクは高かったとしている[5]。さらに、日本の患者のデータの解析でも、透析量としてクリアスペース率(改善された尿素除去率と考えてよい)を採用した場合には、透析量が高い患者(クリアスペース率が 80% を超える患者)で死亡のリスクが上昇するとの結果が得られている[6]。

透析量があるレベルを超えると死亡のリスクが逆に増大することについて、Chertow らは透析量が大きい患者では大きな透析量の理由が高効率あるいは長時間の透析にあるのではなく、筋肉量が少ないことにあり(筋肉量の少ない分だけ、体液量が少ない)、筋肉量の少ない患者ではそもそも死亡のリスクが高いと説明している[5]。しかし、わが国の2施設の全患者(294名)で Kt/V と筋肉量の指標である %CGR との関係を調べたところ、Kt/V が高い患者では %CGR も高いとの結果が得られた(図1)。Chertow らの結果とこの調査の結果はそれぞれ異なる患者集団で得られたものなので、この調査の結果が直ちに Chertow らの説明を否定するものではない。しかし、Chertow らの説明を何らかの方法で検証することも必要であると思える。

Lowrie は多くの文献を見比べて、透析量に尿素除去率を採用した場合には透析量があるレベルを 超すと死亡のリスクは再び増大するという結果が得られているが、透析量に Kt/V  を用いた場合には透析量が高くなっても死亡のリスクは増大しないという結果が得られていると述べている[7]。これは、尿素除去率は尿素除去量と比例するのに対し、Kt/V は透析量が増大していくにしたがい、尿素除去量と比例しなくなっていくことによるのかもしれない。
 
 
 
文献
1.    わが国の慢性透析療法の現況(2001年12月31日現在). pp.559-560, 日本透析医学会, 2002.
2.    Eknoyan G, Beck G, Cheung AK, et al: Effect of dialysis dose and membrane flux in maintenance hemodialysis. N Engl J Med 347:2010–2019, 2002.
3.    わが国の慢性透析療法の現況(1998年12月31日現在). pp.612-613, 日本透析医学会, 1999.
4.    McClellan WM, Soucie JM, Flanders WD: Mortality in end-stage renal disease is associated with facility-to- facility differences in adequacy of hemodialysis. J Am Soc Nephrol 9: 1940-1947, 1998.
5.    Chertow GM, Owen WF, Lazarus JM, et al: Exploring the reverse J-shaped curve between urea reduction ratio and mortality. Kidney Int 56: 1872-1878, 1999.
6.    新里高弘, 他:適正透析に関連する新しい指標:クリアスペース率. 日本透析医学会雑誌 39(第51回日本透析医学会学術集会・総会特別号) : 600, 2006.
7.    Lowrie EG.:The Normalized Treatment Ratio (Kt/V) Is Not the Best Dialysis Dose Parameter. Blood Purif 18:286-294, 2000.

 
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1.2 透析量の指標

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1.2 透析量の指標
1. Kt/V
a. 概念
Kt/V を得るために用いられるカイネティックモデルは、通常、尿素に関する single-pool モデルである。尿素に関する single-pool モデルでは、細胞内であろうが細胞外であろうが、尿素は体内の水分に均一の濃度で分布するとしている。そして、このモデルでは、透析とは体内の水分の一部をダイアライザに導き、この中から尿素を除去したうえで浄化された水分を生体内に戻すことであるとしている。
さて、Kt/V を、ダイアライザの尿素クリアランス(K)、透析時間(t)および体内の水分量(V)からなるひとつの数式と考えれば、その概念は容易に理解できるだろう。すなわち、透析による尿素の除去量はダイアライザの尿素クリアランス(K)が大きいほど、また透析時間(t)が長いほど多くなる。そこで、ダイアライザの尿素クリアランスと透析時間の積である Kt は、尿素の除去という点からみた透析量を表す。
ここで、体内の水分量が多ければ多いほど体内の尿素濃度の低下程度は小さくなり、一方、体内の水分量が少なければ少ないほど体内の尿素濃度の低下程度は大きくなる。そこで、体内の水分量が多い患者にも少ない患者にも Kt を等しく適用できるようにするためには、Kt を体内の水分量で補正して標準化しなければならない。すなわち、Kt を体内の水分量で割れば、単位水分量あたりの Kt である Kt/V が得られる。
 
b. Kt/Vを求める式
1) single-pool Kt/V

ダイアライザの尿素クリアランス、透析時間および体内の水分量をそれぞれ実測し、これらの値から Kt/V を算出するのは現実的ではない。そこで、通常、Kt/V は、透析中の体内の水分の減少を考慮した single-pool モデルを解析することにより得られた Shinzato らの式[1]か、あるいはDaugirdas らの式[2]を用いて算出する。
Daugirdas の式は、尿素の産生を無視しているのでより簡便である。これに対し、Shinzato の式は、尿素の産生を考慮しているのでより複雑になっている。しかし、Shinzato の式には Kt/V とともに nPCR  も算出されるという利点がある(最近、山本らがShinzatoらの式をアレンジして導いた式を用いれば、nPCR が簡単に算出できる)。
Shinzato の式により算出した Kt/V 値と Daugirdas の式により算出した Kt/V 値は一致する。これは、尿素の産生を無視しても、Kt/V を求めるためにカイネティックモデルを解析する限りにおいて問題は生じないことを示している。すなわち、前回の透析終了時から今回の透析終了時までの間(3日間;72時間)に産生された尿素のすべてが透析中(4時間)に除去されると仮定すると、透析中に産生される尿素の量は透析中に透析中に除去される尿素の量の 5.6% にすぎず、ほとんど血清尿素濃度の低下率に影響を与えない。
以下に Daugirdas の式を示す。 
Kt/V = −ln( Ce/Cs−0.008・td )+(4−3.5・Ce/Cs)・ΔBW/BW  (1) 
ただし、Cs は透析前BUN、Ce は透析後 BUN、td は透析時間 (hr)、ΔBW は透析中の体重減少量、BW はドライウェイトあるいは透析後の体重を示す。
なお、日本透析医学会統計調査委員会が用いている式は Shinzato の式である。
2) Equilibrated Kt/V
血清尿素窒素濃度のリバウンドの影響を受けない Kt/V として、Daugirdas らは、透析終了時の血清尿素濃度の代わりに透析後でリバウンド後の血清尿素濃度を使用し、除水にともなって体液量が減少していく single-pool モデルを解析することにより Kt/V を算出した。このようにして求めた Kt/V は、体内における「尿素の除去されやすい区域」と「除去されにくい区域」の境界に存在するはずの尿素の移動の抵抗となるバリアーの影響を消去した上で求めた Kt/V(equilibrated Kt/V) となる。リバウンド後の血清尿素濃度については、彼らは局所血流モデルを解析することにより求めている。以下に、Daugirdas らが報告した、除水にともなって体液量が減少していくsingle-pool モデルを解析することにより求めた、Kt/V を身体全体からの Kt/V に変換する式を示す[3]。 
    eKt/V= sKt/V - 0.6 sKt/V/td + 0.03              (2) 
ただし、t d は透析時間 (hr)、eKt/V は equilibrated Kt/V 、sKt/V は除水にともなって体液量が減少していく single-pool モデルを解析して透析前後の血清尿素濃度から算出した Kt/V を示す。
Equilibrated Kt/V は透析時間や透析効率が異なる国や地域間で透析量を比較するのに優れている[4]。
 
 
2. 尿素除去率(URR)
尿素除去率とは、透析前に存在した尿素量に対する除去された尿素量のパーセンテージである。現在、広く使用されている尿素除去率は、体液量の変化を無視した single-pool モデルに基づく。
Cs - Ce
尿素除去率(%) = ----------×100                       (3)
Cs
 
これに対して、体液量の変化とリバウンドのいずれも考慮した尿素除去率がクリアスペース率である。クリアスペース率は以下の式により算出する[5]。
クリアスペース率 (%) = 100–[(Ce/Cs - 0.008t)(1-0.6/t) + 0.008t]×100/[1+1.81(ΔBW/BW)]     (4) 
ただし、Cs は透析前血清尿素濃度、Ce は透析後血清尿素濃度、t は hr 単位の透析時間、BW は透析後体重、ΔBW は体重減少量を示す。
 
 
3. Kt/Vと尿素除去率の比較
体液量の変化を無視した single-pool モデルに基づく Kt/V、すなわち Gotch の Kt/V と現在広く使用されている尿素除去率の間には、以下に述べるように数学的な関係があり、相互に変換することが可能である。
体液量の変化を無視したsingle-pool モデルにおいては、透析による尿素の除去量(M)は、透析前の体内尿素量(V×Cs)から透析後の体内尿素量(V×Ce)を差し引くことにより求められる。ただし、V は体水分量、Cは透析前 BUN、Cは透析後 BUNを示すものとする。
M = V×Cs - V×Ce= V(Cs - Ce)                    (5) 
ところが、体液量の変化を無視した single-pool モデルでは、透析後 BUN は次に式により求められる。
Ce = Cs×exp(-Kt/V)                                 (6) 
ここで、式(1)に式(2)を代入すると、式(7)が得られる。
M = V×Cs - V×Cs×exp(-Kt/V)                     (7) 
式(7)を整理すると、
M = V×Cs×[1 - exp(-Kt/V)]                          (8)
一方、尿素除去率は、透析前に存在した尿素量(V×Cs)に対する除去された尿素量(M)のパーセンテージと定義されるので、以下の式(9)で表現される。
M
尿素除去率=---------×100                        (9)
V×Cs 
式(9)に式(8)を代入すると、Gotch の Kt/V と現在広く使用されている尿素除去率との関係を示す以下の式が得られる。
尿素除去率=[1 - exp(-Kt/V)]×100                (10)
 

図1には、式(10)をグラフで表現する。図1に示すように、Kt/V を増加させていっても Kt/V の増加ほどには尿素除去率は増加していかないことがわかる。これは次のように言い換えることもできる。すなわち、尿素除去率を増加させていくと、尿素除去率の増加率に比べて Kt/V の増加率はしだいに大きくなっていく。尿素除去率が 100% に達することはありえないが、Kt/V はいくらでも増加させることができる。この基本的な関係は、たとえ Gotch の Kt/V を体液量の変化を考慮した single-pool Kt/V に置き換えても、あるいは尿素除去率をクリアスペース率に置き換えても変わらない。
 
GotchのKt/Vと尿素除去率の関係
Single-pool Kt/V(体重増加率6%)と尿素除去率の関係を示す

なお、Lowrie は Kt/V と死亡のリスクとの関係、尿素除去率と死亡のリスクとの関係に関する多くの文献を見比べて、Kt/V よりも尿素除去率の方が透析量の指標として優れていると述べている[6]。しかし、Kt/V にはすでに膨大な臨床的に重要なデータの蓄積があるので、単純に Kt/V を廃止して尿素除去率あるいはクリアスペース率を採用するわけにいかない。
 
 
 
文献
1.  Shinzato T, et al: Determination of Kt/V and protein catabolic rate using pre- and postdialysis blood urea nitrogen concentrations. Nephron  1994; 67: 280-290
2.  Daugirdas JT: Second generation logarithmic estimates of single-pool variable volume Kt/V: An analysis of error. J Am Soc Nephrol 1993; 14; 1205-1213
3.  Daugirdas JT, Schuneditz D: Overestimation of hemodialysis dose depends on dialysis efficiency by regional blood flow but not by conventional two pool urea kinetic analysis. ASAIO Journal 1995; 41: M719-724
4.  Miwa T, et al: Which Kt/V is the most valid for assessment of both long mild and short intensive hemodialyses? Nephron 2002; 92; 827-831
5.  新里高弘, 他:適正透析に関連する新しい指標:クリアスペース率. 日本透析医学会雑誌  2006; 39(第51回日本透析医学会学術集会・総会特別号); 600, 2006.
6.  Lowrie EG.:The Normalized Treatment Ratio (Kt/V) Is Not the Best Dialysis Dose Parameter. Blood Purif 18:286-294, 2000.



 

1.1 カイネテックモデル


1.1  カイネテックモデル
1. カイネテックモデル

ある程度の不正確さを許容したうえで、生体内における物資の代謝と動態を思い切って簡略化、表現したものがカイネティックモデルである。生体を単一の容器とみなし、この容器たる生体から尿素が除去され、同時に容器内で尿素が生成される状態を表現する single-pool 尿素動態モデルはその代表的な例である。

カイネティックモデルは簡略化されているがゆえに、多数の患者に適用できる。例えば、わが国では、20数万人の患者について尿素動態モデルを解析することによりKt/Vや尿素除去率などの透析量やnPCR が算出されている。このように透析量や nPCR を多数の患者で求めることができるようになった結果、透析量や nPCR を算出してから一定期間後に、これらの指標とそれぞれの患者の生存の有無とを照らし合わせて、それぞれの指標と死亡率との関係を明らかにすることができるようになった。現在、これら透析量と死亡率との関係、nPCR と死亡率との関係を基に、死亡率を最小にする透析量や nPCR 値、すなわち至適透析量至適nPCR が決定され、広く透析医療のレベルアップに役立っている。
 
 
2. 透析量
一般医療において薬剤の投与の結果として何らかの治療効果を期待するように、腎不全医療では血液透析を施行した結果として尿毒症物質の体外除去を期待する。この場合、一般医療での薬剤にあたるものが腎不全医療における血液透析である。したがって、腎不全医療にも一般医療の薬剤投与量に相当する何らかの指標があるはずである。この腎不全医療の指標のひとつが尿素に関する透析量である。そして、透析量は、透析前後の血清尿素濃度からカイネティックモデルを解析することにより算出される。
代表的な透析量の指標には、Kt/V や尿素除去率(URRがある。さらに透析量と関連する指標として TACBUN  が使用されることもある。
 
 
3.透析量を測定する際の指標物質としての尿素
透析患者の体内に蓄積する生理活性(毒性)の強い、したがって生命予後を直接左右する小分子量領域の尿毒症物質は、まだ同定されていない。そこで、小分子量領域の物質に関する透析量を測定する際には、通常、指標物質に「生命予後を直接左右する未知の尿毒症物質」と類似の動態をとると予想される尿素を用いる。すなわち、Kt/V や尿素除去率などの透析量を測定する際に尿素を指標物質として採用するのは、決して尿素が生命予後を直接左右する最も毒性の強い尿毒症物質だからではない。多くの研究は、むしろ尿素には目立った毒性がないことを示している。それにもかかわらず、透析量を測定する際に尿素を指標物質として採用するのは、以下の理由による。
a.  血液透析により末期腎不全患者が延命できるようになった初期の頃には、血液透析で除去可能な尿毒症物質の分子量は 500 dalton 以下であった。この事実は、分子量が 500 dalton 以下の小分子量物質に、生命予後に直接関係する物質の少なくとも一部が含まれていることを示している。そして、尿素の分子量は 60dalton と、生命予後に直接関係する小分子量物質の分子量領域内にある。したがって、生命に直接影響を与える小分子量領域の未知の尿毒症物質の動態は、尿素の動態に類似していると想像される。
b.  尿素は他の有機物質に比べて測定が容易であり、測定費用も安価である。
 
 
4. 尿素に関するカイネティックモデルの種類
a. 体液量が変化しない single-pool モデル
透析量の指標として初めて Kt/V を提案したのは、米国の Gotch らである[1]。彼らは、身体を体液の入っている単純な一個の容器であるとみなし、血液透析とはこの一個の容器から体液をダイアライザに送り込み、ここで体液から尿素を除去したうえで元の容器、すなわち身体に戻すことに近似できるという前提の下に、数学的に Kt/V を求めた。この際、モデルの解析を簡単にするために、彼らは透析中における尿素の産生を無視し、透析前にすでに体内に蓄積していた尿素のみが体外に除去されるものとした。さらに、彼らは、透析中に体液量は変化しないものとした。このモデルを解析して得られるのが以下に示す式である。
  Kt/V =−ln(Ce/Cs)                  (1) 
  ただし、Cs は透析前血清尿素濃度、Ce は透析後血清尿素濃度を示す。
  なお、この初期の Kt/V は、現在ではほとんど利用されることがない。

b. 除水にともなって体液量が減少していく single-pool モデル
Gotch
らが初めて Kt/V を提唱した後、まもなく除水にともなう体液量の減少が考慮されている single-pool モデルを解くことにより求めたKt/V が広く用いられるようになった。除水量がドライウェイトの 6% 程度の場合、除水にともなう体液量の減少が考慮された Kt/V は、これが無視された Kt/V よりも 0.2 程度高い値を示す。
  透析中の体液量の減少を考慮したsingle-pool Kt/V を算出する式には、Shinzatoの式[2]Daugirdasの式[3]がある。
 
c. two-poolモデル
single-pool
モデルは、透析中、生体内のあらゆる区域で尿素窒素濃度は均一であることを前提としたモデルである。しかし実際には、透析終了後しばらくの間は血清尿素濃度が上昇していくことから、生体内には尿素の除去されやすい区域(血管内を含む)と除去されにくい区域があると推測される。すなわち、透析後にみられる血清尿素濃度のリバウンド現象は、透析終了後に生体内の尿素濃度が均一になっていく過程であると考えられる。
そこで、体内の尿素の動態を細胞内区画と細胞外区画のふたつの区画からなる two-pool モデルで説明しようという試みがなされた。しかし、透析後にみられる血清尿素濃度のリバウンド現象を定量的に説明しようとすると細胞膜の物質移動係数(Kc)が患者ごとに大きくバラつくなど、体内での透析中の尿素動態を細胞内区画と細胞外区画からなる two-pool モデルで説明することについては不都合が生じた。また、脳など、一部の臓器を除いて、尿素は細胞膜をほぼ自由に通過するという観察結果からも、体内の尿素の動態を細胞内区画と細胞外区画からなる two-pool モデルを用いて説明することは無理があるように思える。
 
d. 局所血流モデル(regional blood flow model
透析後にみられる血清尿素窒素濃度のリバウンド現象を説明する別のモデルとして、Schuneditz らは局所血流モデルを報告した(図1)[4]。局所血流モデルは、生体は水分含有量が多いにもかかわらず血流は少ない臓器(低血流臓器;筋肉、骨、皮膚、脂肪組織など)と、水分含有量は少ないが血流が多い臓器(高血流臓器;心臓、脳、消化器系臓器、肺など)からなるという観察結果に基づく尿素動態モデルである。すなわち、Schuneditz らが報告した局所血流モデルでは、心拍出量の15% が低血流臓器を還流し、残りの85%が高血流臓器を還流する一方、体液量の 80% が低血流臓器に分布し、残りの20% が高血流臓器に分布するとしている。

そこで、高血流臓器では少量の体液に分布する尿素を大量の血流が洗い流していくので、尿素濃度は透析の進行にともなって大きく低下する。一方、低血流臓器では大量の体液に分布する尿素を少量の血流が洗い流すので、透析の進行にともなう尿素濃度の低下はさほど大きなものとはならない。その結果、透析終了時には高血流臓器と低血流臓器との間に著明な尿素濃度の差が生じる。そして、透析が終了して尿素の除去が停止すると、高血流臓器と低血流臓器の尿素濃度は均一になっていき、この過程が透析終了後の血清尿素濃度のリバウンドとして観察される。

透析終了時における高血流臓器と低血流臓器との間の尿素濃度差は、尿素を急速に除去するほど大きくなる。すなわち、透析終了後の血清尿素濃度のリバウンドは、高効率・短時間透析において低効率・長時間透析よりも著しい。さて、透析終了後、高血流臓器と低血流臓器の尿素濃度が均一になるのにはおおよそ 40分が必要である。それにもかかわらず、透析後の採血は透析終了時に行わざるをえない。そこで、高効率・短時間の透析を施行している国や地域の Kt/V はより高く評価されることになる。

この問題を解決するために、Daugirdas らは、透析終了時の血清尿素濃度の代わりに透析後でリバウンド後の血清尿素濃度を使用し、除水にともなって体液量が減少していく single-pool モデルを解析することにより Kt/V を算出した[5]。このようにして求めた Kt/V は、体内における「尿素の除去されやすい区域」と「除去されにくい区域」の境界に存在するはずの尿素の移動の抵抗となるバリアーの影響を消去した上で求めた Kt/Vequilibrated Kt/V)となる。リバウンド後の血清尿素濃度については、彼らは局所血流モデルを解析することにより求めている。
 
 
5. 透析量とカイネティックモデル
表1には、各カイネティックモデルとそれぞれに対応する Kt/V や尿素除去率の算出式をまとめる。なお、現在、もっともよく用いられる Kt/V は透析中に体液量が変化する single-pool モデルに対応するものである。そして、この Kt/V を算出する Shinzato の式[2]は、Kt/V だけでなくnPCR も算出するために作成されたので、必然的に Kt/V のみを算出する他の式に比べて複雑である。そこで、表1に Shinzato の式を記載することはできなかった。また、現在、一般的に用いられている尿素除去率は、もっとも初期に Gotch らが Kt/V を求めるのに用いた、体液量が変化しない single-pool モデルに対応するものである。最近になって、クリアスペース率の名で局所血流モデルに対応する尿素除去率が報告されたが[6]、これら以外のモデルに対応する尿素除去率はまだ報告されていない。なお、ここでは、尿素除去率を透析開始前に体内に蓄積していた尿素の総量に対する透析で除去された尿素量の比率と定義した。
 
表1  コンパートメントモデルの種類と算出されるKt/Vおよび尿素除去率(URR
 
Kt/V
尿素除去率(URR
定体液量1-Cモデル
Kt/V =−ln(Ce/Cs) 
URR=(Cs – Ce)/Cs×100
変体液量1-Cモデル
sKt/V = −ln( Ce/Cs−0.008td )
(4−3.5Ce/Cs)ΔBW/BW
580×BW(Cs-Ce)+1000×ΔBW×Cs
URR= --------------------------------------------------×100
(580×BW+1000×ΔBW) Cs
局所血流モデル
eKt/V= sKt/V - 0.6 (sKt/V)/td + 0.03
(Ce/Cs - 0.008 td) (1-0.6/td) + 0.008 td
URR = [1– -----------------------------------------------]×100
1+1.81(ΔBW/BW)
定体液量1-Cモデル:体液量が変化しない1-コンパートメントモデル
変体液量1-Cモデル:体液量が減少していく1-コンパートメントモデル
sKt/V
single-pool Kt/V
eKt/V
equilibrated Kt/V
Cs
:透析前血清尿素窒素濃度(mg/ml
Ce
:透析後血清尿素窒素濃度(mg/ml
BW
:透析後体重(kg
ΔBW
:透析による体重減少量(kg
td
hr単位の透析時間
 
 
 
文献
1.  Gotch FA, Sargent JA: A mechanistic analysis of the National Cooperative Dialysis Study (NCDS). Kidney Int 1985; 28; 526-534
2.  Shinzato T, et al: Determination of Kt/V and protein catabolic rate using pre- and postdialysis blood urea nitrogen concentrations. Nephron  1994; 67: 280-290
3.  Daugirdas JT: Second generation logarithmic estimates of single-pool variable volume Kt/V: An analysis of error. J Am Soc Nephrol 1993; 14; 1205-1213
4.  Schuneditz D, et al: A regional blood circulation alternative to in-series two compartment urea kinetic modeling. Trans Am Soc Artif Intern Organs 1993; 39: M573-M577
5.  Daugirdas JT, Schuneditz D: Overestimation of hemodialysis dose depends on dialysis efficiency by regional blood flow but not by conventional two pool urea kinetic analysis. ASAIO Journal 1995; 41: M719-724
6.  新里高弘, 井関邦敏, 他:適正透析に関連する新しい指標:クリアスペース率. 日本透析医学会雑誌  2006; 39(51回日本透析医学会学術集会・総会特別号); 600, 2006.



平成28年度 ダイアライザー機能分類


H.28年4月よりダイアライザーの機能分類が変わりました。

【ダイアライザー機能分類2016】
Ⅰa型(膜面積1.5㎡未満)1,590円
Ⅰa型(膜面積1.5㎡以上)1,530円
Ⅰb型(膜面積1.5㎡未満)1,610円
Ⅰb型(膜面積1.5㎡以上)1,650円
Ⅱa型(膜面積1.5㎡未満)1,600円
Ⅱa型(膜面積1.5㎡以上)1,670円
Ⅱb型(膜面積1.5㎡未満)1,600円
Ⅱb型(膜面積1.5㎡以上)1,740円
S型(膜面積1.5㎡未満)1,660円
S型(膜面積1.5㎡以上)1,660円
特定積層型5,780円
ヘモダイアフィルター2,810円


改定前のダイアライザー機能分類
Ⅰ型(膜面積1.5㎡未満)1,610円
Ⅰ型(膜面積1.5㎡以上)1,690円
Ⅱ型(膜面積1.5㎡未満)1,510円
Ⅱ型(膜面積1.5㎡以上)1,550円
Ⅲ型(膜面積1.5㎡未満)1,510円
Ⅲ型(膜面積1.5㎡以上)1,550円
Ⅳ型(膜面積1.5㎡未満)1,750円
Ⅳ型(膜面積1.5㎡〜2.0㎡)1,740円
Ⅳ型
(膜面積2.0㎡以上
1,770円
Ⅴ型(膜面積1.5㎡未満)1,830円
Ⅴ型
(膜面積1.5㎡〜2.0㎡)1,750円
Ⅴ型(膜面積2.0㎡以上)1,830円
特定積層型5,870円
ヘモダイアフィルター2,860円


H.28年の薬価改定でS型の一部以外は、全てのダイアライザーがマイナスになっています。
最大で-240円の減算。ヘモダイアフィルターも一律-50円になっています。





平成30年度(2018)【ダイアライザー機能分類】


2016 年度診療報酬改定 -具体的な保険点数提示-

平成28年度(2016) ダイアライザー機能分類


【ダイアライザー機能分類2016】【メーカー別】

下肢末梢動脈疾患指導管理加算【透析フットケア加算】