4.17 塩分摂取量の求め方
1.塩分摂取量の計算式
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積した塩分(NaCl)量に、同じ期間に汗、便など、その他のルートから失われた塩分量を加えた値は、塩分摂取量に等しいと考えられる。そこで、定期採血をおこなった際の透析の開始時における体重と血清Na(ナトリウム)濃度、およびそのすぐ前の透析の終了時における体重と血清Na濃度から、塩分摂取量を算出することができる。
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積したNa量は、以下の式を用いて算出する。
体内に蓄積したNa量(mEq/kg/day) =
{(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/ BW (1)
{(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/ BW (1)
ただし、Vw(ml/kg)は下記のWatsonらの式により算出した透析後の体水分量を示す。
男性:Vw = (2.447- 0.09516 Y +0.1074 H +0.3362 BW)×1000/ BW
女性:Vw = (-2.097+0.1069 H +0.2466 BW)×1000/ BW (2)
女性:Vw = (-2.097+0.1069 H +0.2466 BW)×1000/ BW (2)
ここで、BWは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における体重(kg)、Csは定期採血をおこなった際の透析の開始時における血清Na濃度(mEq/L)、Ceは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における血清Na濃度(mEq/L)、Tiは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析から定期採血をおこなった際の透析までの日数(= 3日)、Yは年齢(歳)、Hは身長(cm)を示す。
さて、式(1)で求めた「定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積したNa量(mEq/kg/day)」を「定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積した塩分(NaCl)量(g/kg/day)」に変換するには、Na蓄積量を17で割る。これは、Naの17 mEqがNaClの1gに相当することに基づいている。
体内に蓄積した塩分(NaCl)量(g/kg/day) =
{(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/17/ BW (3)
{(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/17/ BW (3)
一方、透析ナビゲータでは、塩分摂取量(g/kg/day)は、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積した塩分量(g/kg/day)にその他のルートから失われる塩分量である0.04(g/kg/day)を加えたものとしている。したがって、塩分摂取量(g/kg/day)は以下の式により算出される。
塩分摂取量(g/kg/day) =
{(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/17/ BW + 0.04 (4)
{(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/17/ BW + 0.04 (4)
なお、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析終了時における血清Na濃度の代わりに定期採血をおこなった際の透析終了時における血清Na濃度を用いても、算出された塩分摂取量に誤差はほとんど生じない。
2. Na蓄積量の計算式の理論
a.前提
Na蓄積量を算出する式は、以下の前提の下に導かれる。
1) 細胞外のNaは細胞膜を通過して細胞内に移行することはない。
細胞内Na濃度は低く、細胞外のNa濃度は高い。したがって、実際にはNaは細胞外から細胞内に濃度勾配にしたがって流入していく。しかし、同量のNaがいわゆるNaポンプにより細胞内から細胞外に汲み出される。したがって、実質的には細胞外のNaは細胞膜を通過して細胞内に移行することはないと取り扱ってもよい。
細胞内Na濃度は低く、細胞外のNa濃度は高い。したがって、実際にはNaは細胞外から細胞内に濃度勾配にしたがって流入していく。しかし、同量のNaがいわゆるNaポンプにより細胞内から細胞外に汲み出される。したがって、実質的には細胞外のNaは細胞膜を通過して細胞内に移行することはないと取り扱ってもよい。
2)細胞内には、細胞膜を通過できない浸透圧形成物質がある。この物質による細胞内液の浸透圧とNaによる細胞外液の浸透圧とが等しくなるように、細胞内外を水のみが自由に移動する。
細胞内ではK濃度が高く、Na濃度が低い。一方、細胞外液中ではNa濃度が高く、K濃度が低い。そして、NaとKを中心とする陽イオンとこれらの陽イオンに対応する陰イオンが、それぞれ細胞内液および細胞外液の浸透圧を形成している。
細胞外液の浸透圧が低下すると、水が細胞外から細胞内に移行し、細胞内液の浸透圧を低下させるとともに、細胞外液の浸透圧を上昇させて、細胞内外の浸透圧差を消失させる。一方、細胞外液の浸透圧が上昇すると、水が細胞内から細胞外に移行し、やはり細胞内外の浸透圧差を消失させる。
そこで、「細胞内には細胞膜を通過できない浸透圧形成物質があり、この物質による細胞内液の浸透圧とNaによる細胞外液の浸透圧とが等しくなるように、細胞内外を水のみが自由に移動する」と近似しても大きな誤差は生じない。
細胞内ではK濃度が高く、Na濃度が低い。一方、細胞外液中ではNa濃度が高く、K濃度が低い。そして、NaとKを中心とする陽イオンとこれらの陽イオンに対応する陰イオンが、それぞれ細胞内液および細胞外液の浸透圧を形成している。
細胞外液の浸透圧が低下すると、水が細胞外から細胞内に移行し、細胞内液の浸透圧を低下させるとともに、細胞外液の浸透圧を上昇させて、細胞内外の浸透圧差を消失させる。一方、細胞外液の浸透圧が上昇すると、水が細胞内から細胞外に移行し、やはり細胞内外の浸透圧差を消失させる。
そこで、「細胞内には細胞膜を通過できない浸透圧形成物質があり、この物質による細胞内液の浸透圧とNaによる細胞外液の浸透圧とが等しくなるように、細胞内外を水のみが自由に移動する」と近似しても大きな誤差は生じない。
b. 理論
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における細胞内液量をVICF(1)、細胞外液量をVECF(1)、細胞内液中の浸透圧形成物質の濃度をCo(1)、細胞外液中のNa濃度(=血清Na濃度)をCna(1)とし、定期採血をおこなった際の透析の開始時における細胞内液量をVICF (2)、細胞外液量をVECF (2)、細胞内液中の浸透圧形成物質の濃度をCo(2)、細胞外液中のNa濃度(=血清Na濃度)をCna(2)をとする。
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における細胞内液中の浸透圧形成物質量To(1)および細胞外液中のNa量Tna(1)は、それぞれ以下の式(5)により求められる。
To (1) = VICF(1)×Co(1) (5a)
Tna(1) = VECF(1)×Cna(1) (5b)
したがって、細胞内液中の浸透圧形成物質量と細胞外液中のNa量の和であるT(1)は、以下の式(6a)により求められる。
T(1) = To (1) + Tna(1)
= VICF(1)×Co(1) + VECF(1)×Cna(1) (6a)
= VICF(1)×Co(1) + VECF(1)×Cna(1) (6a)
ところが、細胞内液中の浸透圧形成物質濃度と細胞外液中のNa濃度は互いに等しいので、式(6a)は以下のように書き換えられる。
T(1) = VICF(1)×Co(1) + VECF(1)×Cna(1)
= VICF(1)×Cna(1) + VECF(1)×Cna(1)
= {VICF(1) + VECF(1)}×Cna(1) (6b)
= VICF(1)×Cna(1) + VECF(1)×Cna(1)
= {VICF(1) + VECF(1)}×Cna(1) (6b)
ここで、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析終了時における体水分量をW(1)とすると、式(6b)はさらに以下のように書き換えられる。
T(1) = {VICF(1) + VECF(1)}×Cna(1)
= W(1)×Cna(1) (6c)
= W(1)×Cna(1) (6c)
同様に、定期採血をおこなった際の透析の開始時における細胞内液中の浸透圧形成物質量と細胞外液中のNa量の和であるT(2)は、以下の式(7a)により求められる。
T(2) = VICF(2)×Co(2) + VECF(2)×Cna(2)
= VICF(2)×Cna(2) + VECF(2)×Cna(2)
= {VICF(2) + VECF(2)}×Cna(2) (7a)
= VICF(2)×Cna(2) + VECF(2)×Cna(2)
= {VICF(2) + VECF(2)}×Cna(2) (7a)
定期採血をおこなった際の透析の開始時における体水分量W(2)は、前回の透析終了時の体水分量W(1)に体重増加量ΔBWを加えることにより求められる。したがって、式(7a)は以下のように書き換えられる。
T(2) = {VICF(2) + VECF(2)}×Cna(2)
= {W(1) + ΔBW}×Cna(2) (7b)
= {W(1) + ΔBW}×Cna(2) (7b)
細胞内液中の浸透圧形成物質量は常に一定なので、式(7b)から式(6c)を差し引いた値は、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積したNa量を示すことになる。
体内に蓄積したNa量(mEq/body) = T(2) -T(1)
= {W(1) + ΔBW}×Cna(2) - W×Cna(1) (8a)
= {W(1) + ΔBW}×Cna(2) - W×Cna(1) (8a)
ここで、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における単位体重あたりの水分量をVw(ml/kg)とすると、式(8a)は以下のように書き換えられる。
体内に蓄積したNa量(mEq/body) =T(2) -T(1)
= {Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1) (8b)
= {Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1) (8b)
ただし、BW(1)を定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における体重とする。
あるいは
体内に蓄積したNa量(mEq/kg)
=[{Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)]/BW(1) (8c)
=[{Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)]/BW(1) (8c)
塩分摂取量(g/kg/day)は、式(8c)を(3×17)で割り、0.04を加えることにより求められる。ただし、「3」は透析間隔が3日であることに基づいており、「17」はNaの17 mEqがNaClの1 gに相当することに基づいている。
塩分摂取量(g/kg/day)
=[{Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)]/51/BW(1) + 0.04 (9)
=[{Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)]/51/BW(1) + 0.04 (9)
3. 塩分摂取量を求めるプログラム
塩分摂取量の算出法の理論を基に、塩分摂取量を求めるプログラムを作成した。このプログラムでは、計算に必要な入力項目を減らすために、体液量をWatson の式で求めるのではなく、単に透析後体重の 58% としている。このような変更で生じる誤差はごくわずかである。
10 REM ***** 塩分摂取量 *****
20 INPUT"透析前体重(kg)=";BW1
30 INPUT"透析後体重(kg)=";BW2
40 V=BW2*0.58
50 INPUT"透析前ナトリウム濃度(mEq/L)=";NA1
60 INPUT"透析後ナトリウム濃度(mEq/L)=";NA2
70 INA=((V+(BW1-BW2))*NA1-V*NA2)/3/17+0.04*BW2
80 PRINT"塩分摂取量(g/日)=";INA
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