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4.19 エネルギー代謝の概観

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4.19 エネルギー代謝の概観
生体内では、経口摂取した脂肪や糖分が燃料として利用され、エネルギーが産生される。様々な細胞は、このようにして産生されたエネルギーを消費してそれぞれの役割を果たす。しかし、それぞれの細胞が消費するエネルギーは、体内の特定の臓器でまとめて産生され、これがそれぞれの細胞に届けられるのではない。それぞれの細胞が消費するエネルギーは、それぞれの細胞内で産生される。
その際にエネルギー源となるのは、脂肪酸とブドウ糖である。経口摂取される脂肪(中性脂肪)のほとんどは脂肪酸とグリセリンの結合物であり、経口摂取される糖分の多くはブドウ糖が多数、結合してできているデンプンである。デンプンは腸管内でブドウ糖にまで分解されてから吸収され、脂肪は脂肪酸とグリセリンに分解されてから吸収される。吸収されたブドウ糖は、肝臓で再結合してグリコーゲンを形成し貯蔵される。一方、吸収された脂肪酸は脂肪細胞内で再びグリセリンと結合して中性脂肪を形成し貯蔵される。
それぞれの細胞は、腸管から吸収されたエネルギー産生のための燃料であるブドウ糖を直接にその中に取り込み、あるいは肝臓でグリコーゲンが分解することにより産生され、その後に血液中に放出されたブドウ糖を取り込んで利用する。また、それぞれの細胞は、脂肪細胞内の中性脂肪が分解して血液中に放出された脂肪酸、あるいは血液中で中性脂肪が分解して生じた脂肪酸を取り込み、ブドウ糖と同様にエネルギー源として利用する。
このように、それぞれの細胞が利用するエネルギー源にはブドウ糖と脂肪酸があるが、臓器によっていずれを主なエネルギー源として利用するかが決まっている。脳細胞は主にブドウ糖をエネルギー源として利用するのに対し、心筋細胞は主に脂肪酸をエネルギー源として利用する。一方、最大のエネルギー消費臓器のひとつである骨格筋はブドウ糖と脂肪酸のいずれもエネルギー源として利用する。ただし、骨格筋はブドウ糖と脂肪酸の両方が存在する場合にはブドウ糖を優先して利用する。
脳細胞、心筋細胞、肝細胞以外の細胞へのブドウ糖流入速度は、血液中のインシュリン濃度に依存する。これに対し、脳細胞、心筋細胞および肝細胞では、細胞内へのブドウ糖の流入は血液中のインシュリン濃度に依存しない。これらの細胞では、血液中のブドウ糖濃度に応じてブドウ糖が細胞内に流入して行く。したがって、糖尿病患者においてインシュリン製剤を過剰に投与すると、脳細胞、心筋細胞、肝細胞以外の細胞に流入するブドウ糖量が増大し、それにともなって血液中のブドウ糖濃度が低下する。その結果、血液中のブドウ糖濃度に応じて細胞内にブドウ糖が流入して行く脳細胞、心筋細胞および肝細胞の中、ブドウ糖を主なエネルギー源として利用する脳細胞は燃料不足に陥り、以って脳細胞の活動が低下する。これが糖尿病患者にときに見られる低血糖発作の症状発現メカニズムである。
細胞内に入ったブドウ糖は、細胞質内でアセチルCoAに変わったうえで、細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアに流入し、エネルギー産生の際の燃料として使用される。ブドウ糖が変化して生じたアセチルCoAのミトコンドリア内への移動には、とくにこれを運搬する物質は存在せず、自動的にミトコンドリア内に流入する。
一方、細胞外から細胞内への脂肪酸の移動は、ブドウ糖の移動がインシュリンを必要としたような他の物質の存在を必要とせず、血液中の脂肪酸の濃度に応じて受動的に流入する。しかし、細胞内に流入した脂肪酸が細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアに流入するには、脂肪酸と結合してこれをミトコンドリア内に運び入れる運搬物質(担体)であるL-カルニチンが必要である。
L-カルニチンは、肝臓と腎臓で産生されて血液中に放出され、またL-カルニチンを多く含む肉の摂取にともなって腸管から血液中に吸収される。血液中のL-カルニチンは、その濃度に応じて体細胞に流入する。細胞内に流入したL-カルニチンは、それぞれの細胞で脂肪酸と結合してアシルカルニチンとなり、ミトコンドリア内に移動して再び脂肪酸とL-カルニチンに分かれ、L-カルニチンのみがミトコンドリア外にでる。このようにして、L-カルニチンは脂肪酸をミトコンドリア内に運び入れる担体として働く。また、それぞれの細胞で脂肪酸とL-カルニチンが結合して形成されたアシルカルニチンの一部は、細胞外に出て、健常人では腎臓から排泄される。しかし、腎不全患者ではこれが体内に蓄積するので、アシルカルニチン/遊離カルニチン比は健常人におけるよりも上昇している。
そこで、L-カルニチンが欠乏すると、細胞内ではミトコンドリア外に脂肪酸が溢れることになる。ミトコンドリア外に蓄積した脂肪酸は、ADPにリンを結合させてATPを産生するミトコンドリアの内膜に存在する酵素の働きを阻害し、以って細胞のエネルギー産生を妨害する。そのため、L-カルニチンが著しく欠乏すると、脂肪酸を細胞の主なエネルギー源とする心臓では、心収縮力が低下し、あるいは不整脈が生じる。一方、脂肪酸とブドウ糖の両方をエネルギー源として利用する骨格筋では、筋力の低下や筋痙攣が生じる。

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4.18 塩辛さの求め方

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4.18 塩辛さの求め方
図に示すように、蛋白摂取量(X:g/日)とカロリー摂取量(Y:kcal/日)との間には、非常に強い相関が認められた。以下に両者の相関式を示す。
 Y = 16.9 X + 587.0      (1)
我々が何気なく代表的な蛋白源と考えている肉や魚にも脂肪や炭水化物は含まれており、また我々が主なカロリー源であると考えている米やパンにも無視できない量の蛋白質が含まれている。そして、我々は肉や魚から成る副食と米やパンから成る主食とをバランスよく食べるものである。したがって、蛋白摂取量とカロリー摂取量との間に強い相関がみられるのも当然のことである。
蛋白摂取量とカロリー摂取量との間に強い相関がみられるということは、蛋白摂取量は食事量の指標でもあり、したがって、蛋白摂取量を反映するnPCRは蛋白摂取量の指標であると同時に食事量の指標でもあることを示唆している。
さて、塩分摂取量を食事量で割って得られる値は、食事の塩辛さを示すと考えられる。したがって、以下の式により算出される塩分摂取量(Ina)と食事量の指標でもあるnPCRとの比も、食事の塩辛さの指標となり得ると考えられる。
Ina(g/kg/day)= {(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/3/ 17/BW + 0.04            (2)
ただし、Vw(ml/kg)はWatsonらの式による透析後の体水分量を示しており、以下の式により求める。
男性:Vw = (2.447- 0.09516 Y +0.1074 H +0.3362 BW)×1000/ BW
女性:Vw = (-2.097+0.1069 H +0.2466×BW)×1000/ BW (3)
ここで、BWは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における体重(kg)、Csは定期採血をおこなった際の透析の開始時における血清Na(ナトリウム)濃度(mEq/L)、Ceは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における血清Na濃度(mEq/L)を示す。その他、ΔBWは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間の体重増加量(kg)、Yは年齢(歳)、Hは身長(cm)を示している。
そこで、62名の維持透析患者の定期検査データから算出したIna/nPCRの分布を基に、食事の塩辛さの評価基準を試作した。
INa/nPCR<0.12 薄味の食事
0.12≦INa/nPCR<0.16 適切な塩辛さの食事
0.16≦INa/nPCR<0.24、かつ INa≧0.16 やや塩辛い食事
0.24≦INa/nPCR、かつ INa≧0.16 非常に塩辛い食事
この塩辛さの基準の十分な評価は、まだ行われていない。しかし、50名程度の比較的少数の維持透析患者において食生活を観察したところでは、Ina/nPCRは食事の塩辛さの有効な指標であるとの印象を受けた。

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4.17 塩分摂取量の求め方

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4.17  塩分摂取量の求め方
1.塩分摂取量の計算式
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積した塩分(NaCl)量に、同じ期間に汗、便など、その他のルートから失われた塩分量を加えた値は、塩分摂取量に等しいと考えられる。そこで、定期採血をおこなった際の透析の開始時における体重と血清Na(ナトリウム)濃度、およびそのすぐ前の透析の終了時における体重と血清Na濃度から、塩分摂取量を算出することができる。
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積したNa量は、以下の式を用いて算出する。
体内に蓄積したNa量(mEq/kg/day) =
              {(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/ BW            (1)
ただし、Vw(ml/kg)は下記のWatsonらの式により算出した透析後の体水分量を示す。
男性:Vw = (2.447- 0.09516 Y +0.1074 H +0.3362 BW)×1000/ BW
女性:Vw = (-2.097+0.1069 H +0.2466 BW)×1000/ BW                          (2)
ここで、BWは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における体重(kg)、Csは定期採血をおこなった際の透析の開始時における血清Na濃度(mEq/L)、Ceは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における血清Na濃度(mEq/L)、Tiは定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析から定期採血をおこなった際の透析までの日数(= 3日)、Yは年齢(歳)、Hは身長(cm)を示す。
さて、式(1)で求めた「定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積したNa量(mEq/kg/day)」を「定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積した塩分(NaCl)量(g/kg/day)」に変換するには、Na蓄積量を17で割る。これは、Naの17 mEqがNaClの1gに相当することに基づいている。
体内に蓄積した塩分(NaCl)量(g/kg/day) =
             {(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/17/ BW         (3)
一方、透析ナビゲータでは、塩分摂取量(g/kg/day)は、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積した塩分量(g/kg/day)にその他のルートから失われる塩分量である0.04(g/kg/day)を加えたものとしている。したがって、塩分摂取量(g/kg/day)は以下の式により算出される。
塩分摂取量(g/kg/day) =
           {(Vw×BW/1000+ ΔBW)×Cs-Vw×BW/1000×Ce}/Ti/17/ BW + 0.04   (4)
なお、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析終了時における血清Na濃度の代わりに定期採血をおこなった際の透析終了時における血清Na濃度を用いても、算出された塩分摂取量に誤差はほとんど生じない。
 
 
2. Na蓄積量の計算式の理論
a.前提
Na蓄積量を算出する式は、以下の前提の下に導かれる。
1) 細胞外のNaは細胞膜を通過して細胞内に移行することはない。
細胞内Na濃度は低く、細胞外のNa濃度は高い。したがって、実際にはNaは細胞外から細胞内に濃度勾配にしたがって流入していく。しかし、同量のNaがいわゆるNaポンプにより細胞内から細胞外に汲み出される。したがって、実質的には細胞外のNaは細胞膜を通過して細胞内に移行することはないと取り扱ってもよい。
2)細胞内には、細胞膜を通過できない浸透圧形成物質がある。この物質による細胞内液の浸透圧とNaによる細胞外液の浸透圧とが等しくなるように、細胞内外を水のみが自由に移動する。
細胞内ではK濃度が高く、Na濃度が低い。一方、細胞外液中ではNa濃度が高く、K濃度が低い。そして、NaとKを中心とする陽イオンとこれらの陽イオンに対応する陰イオンが、それぞれ細胞内液および細胞外液の浸透圧を形成している。
細胞外液の浸透圧が低下すると、水が細胞外から細胞内に移行し、細胞内液の浸透圧を低下させるとともに、細胞外液の浸透圧を上昇させて、細胞内外の浸透圧差を消失させる。一方、細胞外液の浸透圧が上昇すると、水が細胞内から細胞外に移行し、やはり細胞内外の浸透圧差を消失させる。
そこで、「細胞内には細胞膜を通過できない浸透圧形成物質があり、この物質による細胞内液の浸透圧とNaによる細胞外液の浸透圧とが等しくなるように、細胞内外を水のみが自由に移動する」と近似しても大きな誤差は生じない。
b. 理論
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における細胞内液量をVICF(1)、細胞外液量をVECF(1)、細胞内液中の浸透圧形成物質の濃度をCo(1)、細胞外液中のNa濃度(=血清Na濃度)をCna(1)とし、定期採血をおこなった際の透析の開始時における細胞内液量をVICF (2)、細胞外液量をVECF (2)、細胞内液中の浸透圧形成物質の濃度をCo(2)、細胞外液中のNa濃度(=血清Na濃度)をCna(2)をとする。
定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における細胞内液中の浸透圧形成物質量To(1)および細胞外液中のNa量Tna(1)は、それぞれ以下の式(5)により求められる。
To (1) = VICF(1)×Co(1)            (5a)
Tna(1) = VECF(1)×Cna(1)         (5b)
したがって、細胞内液中の浸透圧形成物質量と細胞外液中のNa量の和であるT(1)は、以下の式(6a)により求められる。
T(1) = To (1) + Tna(1)
      = VICF(1)×Co(1) + VECF(1)×Cna(1)              (6a)
ところが、細胞内液中の浸透圧形成物質濃度と細胞外液中のNa濃度は互いに等しいので、式(6a)は以下のように書き換えられる。
T(1) = VICF(1)×Co(1) + VECF(1)×Cna(1)
      = VICF(1)×Cna(1) + VECF(1)×Cna(1)
      = {VICF(1) + VECF(1)}×Cna(1)                       (6b)
ここで、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析終了時における体水分量をW(1)とすると、式(6b)はさらに以下のように書き換えられる。
T(1) = {VICF(1) + VECF(1)}×Cna(1)
      = W(1)×Cna(1)                                           (6c)
同様に、定期採血をおこなった際の透析の開始時における細胞内液中の浸透圧形成物質量と細胞外液中のNa量の和であるT(2)は、以下の式(7a)により求められる。
T(2) = VICF(2)×Co(2) + VECF(2)×Cna(2)
      = VICF(2)×Cna(2) + VECF(2)×Cna(2)
      = {VICF(2) + VECF(2)}×Cna(2)                       (7a)
定期採血をおこなった際の透析の開始時における体水分量W(2)は、前回の透析終了時の体水分量W(1)に体重増加量ΔBWを加えることにより求められる。したがって、式(7a)は以下のように書き換えられる。
T(2) = {VICF(2) + VECF(2)}×Cna(2)
      = {W(1) + ΔBW}×Cna(2)                              (7b)
細胞内液中の浸透圧形成物質量は常に一定なので、式(7b)から式(6c)を差し引いた値は、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時から定期採血をおこなった際の透析の開始時までの間に体内に蓄積したNa量を示すことになる。
体内に蓄積したNa量(mEq/body) = T(2) -T(1)
     = {W(1) + ΔBW}×Cna(2) - W×Cna(1)                                                   (8a)
ここで、定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における単位体重あたりの水分量をVw(ml/kg)とすると、式(8a)は以下のように書き換えられる。
体内に蓄積したNa量(mEq/body) =T(2) -T(1)
    = {Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)              (8b)
ただし、BW(1)を定期採血をおこなった際の透析のすぐ前の透析の終了時における体重とする。
あるいは
体内に蓄積したNa量(mEq/kg)
    =[{Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)]/BW(1)    (8c)
塩分摂取量(g/kg/day)は、式(8c)を(3×17)で割り、0.04を加えることにより求められる。ただし、「3」は透析間隔が3日であることに基づいており、「17」はNaの17 mEqがNaClの1 gに相当することに基づいている。
塩分摂取量(g/kg/day)
    =[{Vw×BW(1)/1000 + ΔBW}×Cna(2) - Vw×BW(1)/1000×Cna(1)]/51/BW(1) + 0.04      (9)
 
 
3. 塩分摂取量を求めるプログラム
塩分摂取量の算出法の理論を基に、塩分摂取量を求めるプログラムを作成した。このプログラムでは、計算に必要な入力項目を減らすために、体液量をWatson の式で求めるのではなく、単に透析後体重の 58% としている。このような変更で生じる誤差はごくわずかである。
10 REM ***** 塩分摂取量 *****
20 INPUT"透析前体重(kg)=";BW1
30 INPUT"透析後体重(kg)=";BW2
40 V=BW2*0.58
50 INPUT"透析前ナトリウム濃度(mEq/L)=";NA1
60 INPUT"透析後ナトリウム濃度(mEq/L)=";NA2
70 INA=((V+(BW1-BW2))*NA1-V*NA2)/3/17+0.04*BW2
80 PRINT"塩分摂取量(g/日)=";INA


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4.16 個々の患者の至適 nPCR値(1)

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4.16  個々の患者の至適 nPCR値(1)

1. 従来の方法により決定したnPCRの至適な範囲をnPCRの目標値として用いることができない患者

臨床の現場では、しばしばロジステイック回帰分析などの多変量解析により決定したnPCRの至適な範囲がnPCRの目標領域として用いられる。しかし、このような至適nPCRの範囲は「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」であって、「すべての患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」ではない。したがって、患者によっては、実測のnPCR値が適正であるのか否かをこの基準に照らし合わせて判断するのが不適当であることもある。
ガイドラインの根拠となる「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」は、nPCR以外のパラメータの値は標準的なnPCR値を有する患者群の平均値にそれぞれ等しいとの前提の下で決定される。したがって、nPCR以外のパラメータのいずれかの値が標準的なnPCR値を有する患者群の平均値と大きく異なっている患者では、図1に示すような「Kt/V値と死亡のリスクとの関係」に照らし合わせて、Kt/Vの値が適正であるか否かを判断することが不適切であることもある。

図 1
例えば、今、透析前血清リン濃度 が8.5 mg/dL、かつnPCR値が 0.81 g/kg/day の患者がいたとする。図1に示すように、ロジスティック回帰分析法により決定した「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」は0.90〜1.50 g/kg/dayなので、この患者ではnPCRを増やすべく食事指導を行わなければならないと考えがちである。しかし、「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」は、その患者の透析前血清リン濃度が、nPCRの範囲が1.1〜1.3 g/kg/dayである患者群(基準とした患者群)における平均の透析前血清リン濃度(6.3 mg/dL)に等しいことを前提として決定されている。したがって、実測の透析前血清リン濃度が基準とした患者群における平均の透析前血清リン濃度から著しく外れているこの患者では、「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」をnPCRの至適な範囲として採用することはできない。

2. 患者ごとの至適 nPCR値 
ロジスティック回帰分析法を用いれば、任意の患者の nPCR値を含む多くの実測のデータ値からその患者の死亡のリスクを推定することができる。そして、これを応用すれば、任意の患者の至適nPCR値を求めることができる。すなわち、任意の患者について、nPCR以外のパラメータ値には実測値を用い、nPCRについてのみは低値から高値まで少しずつ異なる様々な値を用いて、それぞれのnPCR値における死亡のリスクを算出する。そして、図2に示すように、それぞれのnPCR値の中から死亡のリスクが最小となるnPCR値を選び出し、これを至適nPCR値とする。任意の患者において実測のnPCR値が適正か否かを評価しようとする場合には、このようにして求めた至適nPCR値と実測のnPCR値とを比較する。

図 2


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4.15 調理による食品中のカリウム含有量の減少

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4.15  調理による食品中のカリウム含有量の減少
調理後にカリウムの残っている割合
食材調理の仕方カリウム残存率(%)
   
短冊切のキャベツ5倍の水で4分間ゆでた場合60
短冊切のキャベツ5倍の水で30分間ゆでた場合35
ほうれん草を株ごと5倍の水で3分間ゆでた場合55
ほうれん草を株ごと10倍の水で5分間ゆでた場合10
さやえんどう5倍の水で2分間ゆでた場合80
さやえんどう5倍の水で5分間ゆでた場合55
乱切のにんじん2倍の水で煮た場合60
いちょう切のにんじん2倍の水で煮た場合40
乱切のごぼう2倍の水で煮た場合65
ささがき2倍の水で煮た場合35
いちょう切のれんこん2倍の水で煮た場合50
いちょう切のれんこん1%酢酸で煮た場合45
皮を剥いた丸のじゃがいも2倍の水で煮た場合55
皮を剥いた4分割のじゃがいも2倍の水で煮た場合30
乾燥大豆ゆでた場合75


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4.14 様々な食品のリン含有量

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4.14  様々な食品のリン含有量
表1.穀類・芋類・その他
食品名100g当たりリン含有量常用量と目安量常用量当たりリン含有量(mg)
食パン706枚切り1枚60g42
めし(精白米)30茶碗1杯120g36
めし(胚芽精米)65茶碗1杯120g78
ポテトチップ1001つかみ15g15


表2.豆類・乳製品・卵
食品名100g当たりリン含有量常用量と目安量常用量当たりリン含有量(mg)
落花生38010粒8g31
ピーナツバター370大さじ1杯17g63
ゆであずき100大さじ1杯12g12
うずら卵(茹)110大さじ1杯14g21
大豆(乾)580大さじ1杯11g64
豆腐(木綿)851/6丁50g43
生揚げ1501/4枚50g75
油揚げ2301枚40g92
調整豆乳441カップ206g91
2001個60g104
牛乳90カップ1杯200g180
プロセスチーズ730スライス1枚20g146



表3.肉・魚
食品名100g当たりリン含有量常用量と目安量常用量当たりリン含有量(mg)
魚肉ハム501枚20g10
ボンレスハム3001枚20g60
ロースベーコン2601枚20g52
あじ190中1尾200g(可食部110g)209
あゆ3101尾80g(可食部50g)155
真いわし200小1尾40g(可食部24g)48
うなぎかば焼3001/2くし50g150
かつお2701切れ100g270
かれい1801切れ100g180
さけ2101切れ80g168
さば1601切れ80g128
たら1701切れ80g129
ひらめ200さしみ5切れ40g80
いか170冷凍1/2枚75g128
えび130車えび中1尾30g(可食部15g)20
牛肉1301枚80g104
鶏むね肉210皮なし1/2枚60g126
鶏レバー3001個40g120
豚肉160肩薄切り1枚30g48
豚レバー3401枚30g102


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4.13 高カリウム血症の治療

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4.13  高カリウム血症の治療
1.緊急時の対応
緊急性のある場合には、直ちに血液透析を開始する。次いで、高カリウム血症の原因を発見し、これを取り除く。
2.食事指導
高カリウム血症の原因がカリウム摂取量の過剰である場合には、まずカリウムの摂取量を減らすべく指導する。カリウムは、野菜、果物、芋類、海草、肉、魚に多く含まれている。これらの食材については、10分ほどゆで、ゆで汁を捨てることによりカリウム含有量を減らすことができる。しかし、カリウム含有量の減少の程度は一般に信じられているほど大幅なものではない。また、食材のゆでこぼしを厳密に実行すると水溶性ビタミンの喪失量が増大するので、ビタミン剤の補給が必要となる。また、ゆでこぼしで得られた食品では本来の風味が損なわれるので、食生活が味気ないものになるのはやむ得ない。
なお、筋肉量の少ない高齢者や全身衰弱の著しい患者では、たとえカリウム摂取量が同じでも血清カリウム濃度が上昇しやすいことに留意する必要がある。
3.薬物療法
食事指導と同時に、カリウムイオン交換樹脂(ポリスチレンスルホン酸カルシウム(薬)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(薬))を服用させ、便中へのカリウム排泄量の増大を図る。カリウムイオン交換樹脂は、1週間あたりの服用量が等しい場合、非透析日のみに服用させるよりも、連日服用させる方がより効果的である[1]。
ポリスチレンスルホン酸カルシウム
 アーガメイトゼリー
  (三和化学)
  カリメート
  (日研化学)
  エクスメート
     (ニプロファーマ)
  カリエード
  (東洋製化)
 カリセラム
 ポスカール
 ミタピラリン
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
  ケイキサレート
  (鳥居)
 カリセラム-Na
 

 

1.伊藤 晃:カリウム制限食、腎栄養学. 腎と透析 33(増刊号): 221, 1992.

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4.12  高カリウム血症の症状

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4.12  高カリウム血症の症状

(1)高カリウム血症の臨床症状
軽度の高カリウム血症では無症状であることが多い。比較的高度の高カリウム血症では、「口のまわりがしびれる」、「胸が苦しい」、「体がだるい」などの症状が出現する。さらに高カリウム血症が高度になると、急速に心臓に関する症状、例えば、徐脈や不整脈が出現する。高カリウム血症で臨床症状が出現すると、すでに危険な状態にあるが、心臓に関する症状が出現すると、今や死が迫っていると考えるべきである。
(2)高カリウム血症の心電図所見
心電図では、(1) T波の尖鋭化とQT間隔の狭小化、(2) P波の消失、(3) QRS波の拡大と変形、(4) QRS波、ST波およびT波の融合による2相性波形が現れる。
(3)高カリウム血症の症状と治療
高カリウム血症の原因と治療については別の項で述べる。





4.11  高カリウム血症の原因

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4.11  高カリウム血症の原因
1. カリウム負荷量の増大
カリウムを多く含む食品の過剰摂取が高カリウム血症の原因としてもっとも多い。
透析百科の姉妹編である 透析ナビゲータ では、各患者のカリウム摂取量を定期検査データを基に、新しい数式を用いて算出しいる。
 
 
2. 細胞内から細胞外へのカリウム流出量の増大による高カリウム血症
a.アシドーシス(とくに呼吸性アシドーシス)
b.カロリー摂取量の不足、発熱や感染症、消耗性疾患
c.血管内での溶血
d.消化管出血(消化管内に出た血球が破壊し、血球内のカリウムが遊離して吸収されるため)
e.インスリン欠乏状態
f.β2遮断剤の投与
 
 
3. 運動と交感神経緊張度増大の影響
透析患者では、採血直前に激しい運動をおこなうと、一時的に血清カリウム濃度が上昇することがある。さて、正常には、運動をおこなうと筋細胞膜上で持続的にスパイク電位が発生し、これにともなって筋肉内から細胞外液中へのカリウム流出量が増大する。しかし、同時に交感神経系の緊張度が増大し、これは細胞内へのカリウム移行を促進する。そこで、このふたつの因子が互いに打ち消し合う結果、運動をおこなっても細胞内から細胞外への差し引きのカリウム移行は生じない。ところが、透析患者ではときに交感神経系の緊張に対する筋細胞の反応が鈍化している。そこで透析患者では、激しい運動をおこなうと細胞内から細胞外へのカリウムの差し引きの流出が増大し、血清カリウム濃度が上昇することがある。この場合、しばらく安静にすると血清カリウム濃度は再び元の値に戻る。したがって、透析室に駆け込んだ直後に採血した検体では、血清カリウム濃度が上昇していることがある。
 
 
4. 偽性高カリウム血症
高カリウム血症のみられるときには、まず採血時の溶血による偽性高カリウム血症の可能性を除外しておかなければならない。細い針で強く吸引すると溶血が生じ,検体中のカリウム濃度が上昇する。このときにはしばしば血清LDH活性も上昇する。次に、採血後に血清分離せずに長い時間、放置しておくと血球からカリウムが遊離し、結果として検体のカリウム濃度が上昇する。とくに、夜間透析をおこなう患者において透析前に採血した血液を、血清分離せずに翌朝まで放置しておくと、検体中のカリウム濃度が0.5〜1.0mEq/L程度上昇する。
 
 
5.高カリウム血症の症状と治療
高カリウム血症の症状と治療については別の項で述べる。

4.10  高カルシウム血症のコントロール

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4.10  高カルシウム血症のコントロール
活性型ビタミンD製剤を投与すると、カルシウムの腸管吸収が促進し高カルシウム血症を生じることがある。とくにアルミニウム骨症のある患者では、低回転骨のため、比較的少量の活性型ビタミンDによっても高カルシウム血症を生じる。炭酸カルシウムや酢酸カルシウムなどのカルシウム含有リン吸着剤も高カルシウム血症の原因となりうる。高カルシウム血症を防ぎつつ、高リン血症の治療を行う手順については別の項で述べる。
二次性副甲状腺機能亢進症の患者で高カルシウム血症の出現を避けつつ副甲状腺機能を抑制するために、マキサカルシトール(薬)とファレカルシトリオール(薬)が開発された。マキサカルシトールとファレカルシトリオールは、カルシトリオール(薬)やアルファカルシドール(薬)と同等のPTH抑制作用を示す量を投与しても、これらの活性型ビタミンDほどには血清Ca濃度を上昇させないと期待されている。マキサカルシトールとファレカルシトリオールの投与法は別の項で述べる。

 
高カルシウム血症の原因として、活性型ビタミンDやカルシウム含有リン吸着剤の投与、あるいは二次性副甲状腺機能亢進症が否定された場合には、悪性腫瘍に起因する高カルシウム血症を考える。癌の骨転移、腫瘍細胞からのPTH様物質(PTHrP)やサイトカイン(プロスタグランディンE2、TNF-β、インターロイキン-1、TGF-α)の遊離は、骨からのカルシウム溶出を促進させる。このような病態に対しては、原疾患の治療が重要である。
 

マキサカルシトール

 オキサロール
    (中外)
 
ファレカルシトリオール
 フルスタン
    (大日本住友)
 ホーネル
    (大正)

カルシトリオール
 アルカルロール
    (皇漢堂)
 オタノール
    (旭化成ファーマ)

アルファカルシドール
 アルファロール
    (中外)
 アルシオドール
    (シオノケミカル)

4.9 高リン血症のコントロール

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4.9 高リン血症のコントロール
高リン血症の是正のためには、まず、リン摂取量の制限が必要である(1日の許容リン摂取量は800〜1,000mg)。ところが、リン含有量の多い食品は同時に蛋白質含有量の多い食品でもある。したがって、リンの摂取量を制限すると、蛋白摂取量も低下する。一方、透析患者の蛋白質の必要摂取量は0.9g/kg/日以上である。すなわち、リンの摂取量の制限と蛋白質の必要摂取量の確保は、しばしば互いに矛盾する。そこで、高リン血症の是正のためには、nPCRが0.9〜1.1g/kg/日となるように蛋白摂取量を制限するとともに、炭酸カルシウムや酢酸カルシウム、塩酸セベラマー、炭酸ランタンクエン酸第二鉄などのリン吸着剤を服用することが必要となる。またリン含有量のとくに多い食物の摂取を避けることも必要である。

4.8  透析前血清リン・カルシウム濃度と死亡のリスク

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4.8  透析前血清リン・カルシウム濃度と死亡のリスク
1.血清リン・カルシウム濃度と死亡のリスク

一般に血清リン濃度や血清カルシウム濃度は骨代謝の面から議論されることが多い。 しかし、血清リン濃度や血清カルシウム濃度は、異所性石灰化を介して生命予後にも影響を与える。Taniguchi らは、多数の透析患者のデータを解析して、 血清リン濃度と死亡のリスクとの関係および血清補正カルシウム濃度と死亡のリスクとの関係を明らかにした。すなわち、彼らの報告によると、血清リン濃度が高すぎても低すぎても 透析患者の死亡のリスクは上昇する[1]。同様に、血清補正カルシウム濃度が高すぎても低すぎても 透析患者の死亡のリスクは上昇する[1]。
日本透析医学会は、Taniguchi らの報告を受け、2012年版ガイドライン[2]でも2006年版ガイドラインを踏襲して透析前血清リン濃度の管理目標値を 3.5〜6.0 mg/dL、透析前血清補正カルシウム濃度の管理目標値を 8.4〜10.0 mg/dL とした。 日本透析医学会は、さらに二次性副甲状腺機能亢進症の治療の基本は、まず血清リン濃度を適正値にコントロールすることであり、その後に血清カルシウム濃度を適正値に管理すると も勧告し ている。
 
 
2.血清リン濃度と蛋白摂取量

蛋白摂取量の多い患者では血清リン濃度が高くなる傾向がある。すなわち、nPCRの高い患者では、透析前血清リン濃度が明らかに高い。しかし、nPCRと透析前血清カルシウム濃度との間にはほとんど関係が認められない。
 
 
 
文献
1. Taniguchi M, et al: Serum phosphate and calcium should be primarily and consistently controlled in prevalent hemodialysis patients. Ther Apher Dial 17: 221-228, 2013.
2. 第2章血清P,Ca濃度の管理, 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン. 透析会誌45:301-356,2012.

4.7  体重増加率

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4.7  体重増加率
1.日本透析医学会統計調査委員会に用いている体重増加率

同委員会では、透析前後の体重の差は、前回の透析後の体重と今回の透析前の体重の差にほぼ等しいとの前提の下、透析中の体重減少量の透析後の体重に対する百分率(体重減少率)を体重増加率に代わる指標として用いている。
 
2.体重減少率と死亡のリスク

同委員会報告は、体重減少率が4〜6%を越えて大きくなると死亡のリスクが増大すると報告している[1]。この報告は、透析間の体重増加率を4〜6%未満に抑えることが望ましいことを示唆している。
なお、体重増加率は飲水量のみにより決定されるのではなく、nPCRに反映される食事摂取量にも影響される。透析百科の姉妹編である 透析ナビゲータ では、個々の患者の水分摂取量の体重増加率への寄与度と食事摂取量の寄与度とをそれぞれ算出している。
 
 3.体重減少率と心胸郭比
日本透析医学会統計調査委員会の報告によると、体重減少率の大きな患者では心胸郭比も大きい傾向がある。このことより、大きな体重減少率は心循環器系への負荷となり、長期的にはうっ血性心不全の原因になると考えられる。

体重減少率が血液透析患者の1年生存に与えるリスク

(透析歴2年以上)

 
文献

1. わが国の慢性透析療法の現況(1998年12月31日現在). pp.616-617, 日本透析医学会, 1999

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4.6 血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度の関係

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4.6  血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度の関係
血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度は、両者ともに患者の蛋白栄養状態を反映する指標である。従って、患者の蛋白栄養状態を評価する場合、これらの指標のうち、どちらか一方のみを用いれば目的は十分に達せられるように思われるかもしれない。
しかし、1,588名の透析症例の臨床データを基に解析した結果では、血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度との間には、相関関係は認められず、また両指標と生命予後との関係を多変量解析した結果でも、両指標は互いに独立した生命予後指標であることが示された[1] 。すなわち、血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度は互いに異なる臨床情報を与えていると考えるべきである。その理由としては、クレアチニンはほとんど生理学的な活性を持たないのに対して、アルブミンは、膠質浸透圧の形成、様々な物質のキャリアー、酸塩基平衡の緩衝物質、さらにantioxidant[2-4]など様々な役割を持っていることが考えられる。

従って、臨床の場では、血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度の両者を用いて患者の健康状態を評価をすべきであろう。

血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度の関係
 



















 
 
文献
1. Nakai S, et al.: Predialysis serum albumin concentration and creatinine generation rate do not reflect the same pathophysiologic status. Clin Exp Nephrol 2: 44,1998.
2. Halliwell B: Albumin -- an important extracellular antioxidant? Biochem Pharmacol 37: 569, 1988.
3. Gutteridge JMC: Antioxidant properties of the proteins caeruloplasmin, albumin and transferrin. A study of their activity in serum and synovial fluid from patients w ith rheumation arthritis. Biochim Biophys Acta 869: 119, 1986.

4. Wayner DDM, et al.: Quantitative measurement of the total, peroxyl radical-trapping antioxidant capability of human blood plasma by controlled peroxidation. Fedn Eur Biochem Soc Lett 187: 33, 1985.

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4.5 %クレアチニン産生速度と死亡のリスク

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4.5  %クレアチニン産生速度と死亡のリスク
1.%クレアチニン産生速度と死亡のリスク
日本透析医学会統計調査委員会は、%クレアチニン産生速度と生命予後との関係も解析している [1]。それによると、%クレアチニン産生速度が100%を越えて大きくなるほど死亡のリスクは小さくなり、逆に100%を下回って小さくなるほど死亡のリスクは大きくなる。この所見は、%クレアチニン産生速度、すなわち患者の筋肉量を増大させるような透析が望ましいことを示している。
2.%クレアチニン産生速度は総合評価のための指標
%クレアチニン産生速度(すなわち筋肉量)は、Kt/VやnPCRなどの指標とは異なり、直接的に増大させることはできない。透析処方、食事療法、運動療法、そして合併症の治療など、透析治療の全てが総合的に効果をあげた場合にはじめて増大すると考えられる。すなわち、%クレアチニン産生速度は、Kt/VやnPCRのような患者の治療条件にかかわる指標ではなく、むしろ、個々の透析患者の治療成績を総合的に評価する指標と解釈すべきであろう。




%クレアチニン産生速度が血液透析患者の1年生存に与えるリスク

(透析歴2年以上)


 

 


























文献

1. 日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (1998年12月31日現在).  pp.620-621, 日本透析医学会, 1999

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4.4 %クレアチニン産生速度

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4.4  %クレアチニン産生速度
1.クレアチニン産生速度と筋肉量
体を構成する全蛋白質の約半分は筋肉を形成するのに使われており、また体を構成する蛋白質の中で、量的に最も大きく変動するのも筋肉を形成している蛋白質である。一方、クレアチニンは筋肉内に存在するクレアチンから非酵素的に産生され、さらに筋肉量が多いほどクレアチニン産生速度も大きくなる。したがって、クレアチニン産生速度は筋肉量の指標であると同時に栄養状態の指標のひとつでもある。クレアチニン産生速度は透析前後の血清クレアチニン濃度から求められる[1]。
 
2.性別、年齢によるクレアチニン産生速度の補正(%クレアチニン産生速度)
しかし、平均的患者の筋肉量は、患者の性別、年齢によって異なる。このため、患者の栄養状態を評価する際には、クレアチニン産生速度そのものを使用するよりも、評価しようとしている患者と同性、同年齢の非糖尿病の透析患者のクレアチニン産生速度の平均値に対する、患者のクレアチニン産生速度の百分率である%クレアチニン産生速度を用いるのが妥当であると考えられる。
%クレアチニン産生速度は死亡のリスクに関する最もインパクトの強い指標である。%クレアチニン産生速度が大きければ大きいほど、死亡のリスクは低下する。ただし、脳血管障害による死亡のリスクのみは、%クレアチニン産生速度の大小とは無関係のようである。
 
 
 
文献
1.      Shinzato T, et al: Method to calculate creatinine generation rate using pre- and postdialysis creatinine concentrations. Artif Organs 21: 864-872, 1997.

4.3 透析前血清アルブミン濃度

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4.3  透析前血清アルブミン濃度
血清アルブミン濃度は透析患者の生命予後と強く関係する因子である [1,2]。日本透析医学会統計調査委員会は、約2万人の症例のデータを基に血清アルブミン濃度と生命予後との関係を解析し、透析前血清アルブミン濃度が4.5g/dlを下回って低い患者では、血清アルブミン濃度が低いほど死亡のリスクが高いとの結果を得た[3]。
























血清アルブミン濃度は蛋白栄養状態の指標である。したがって、低い血清アルブミン濃度が死亡のリスクを高めるという事実は、そのような患者が病的な低栄養状態にあり、それが死亡のリスクになることを示唆している。













透析前血清アルブミン濃度が血液透析患者の1年生存に与えるリスク


文献
1. Lowrie EG, Lew NL: Death risk in hemodialysis patients: the predictive value of commonly measured variables and an evaluation of death rate differences between facilities. Am J Kidney Dis 15: 458, 1990.
2. Lowrie EG, et al: Race and diabetes as death risk predictors in hemodialysis patients. Kidney Int Suppl 38: S22, 1992.

3. 日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (1997年12月31日現在).  pp.396, 日本透析医学会, 1998

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4.2 nPCRと死亡のリスク

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4.2 nPCRと死亡のリスク
日本透析医学会統計調査委員会は、、ロジスティック回帰分析法を用いてnPCRと死亡のリスクとの関係を求めた。その結果によると、nPCRが0.9g/kg/day未満では、nPCRが小さければ小さいほど、死亡のリスクは増大する[1]。従って、nPCRは、0.9g/kg/day以上であることが望ましい。これは、他の研究者によって過去に報告されたnPCRの至適水準にほぼ一致する [2,3]。
また、日本透析医学会統計調査委員会の2000年度末の調査[4]によると、nPCRが0.9g/kg/day未満の患者では、nPCRが低いほど脳梗塞発症のリスクが高く、とくに0.5g/kg/day未満の患者では極めて高いリスクを示した。
ただし、nPCRの上記の至適レベルは、nPCR以外のパラメータの値、とくに透析前血清リン濃度、Kt/V、クレアチニン産生速度、食事の塩辛さ(非透析時における体内への1日あたりの塩分蓄積量/nPCR)などが、基準とした患者群(nPCRが1.1〜1.3 g/kg/dayの範囲にある患者群)におけるそれぞれのパラメータの平均値と大きくは異なっていない場合にのみ、有効である。
なお、具体的に nPCR を求めるには、日本透析医学会統計調査委員会が提供しているソフトウエアを利用するか、最近、報告された山本らの式を用いる。
 
 
 
 
文献

1. わが国の慢性透析療法の現況(1998年12月31日現在). pp.617-620, 日本透析医学会, 1999
2. Gotch FA, Sargent JA: A mechanistic analysis of the National Cooperative Dialysis Study (NCDS). Kidney Int 28: 526, 1985.
3. Acchiardo SR, et al: Morbidity and mortality in hemodialysis patients. ASAIO Trans 36: M148, 1990.
4.日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (2000年12月31日現在).  pp.566-567, 日本透析医学会,  2001